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国会は、朝から異様な緊張に包まれていた。理由は明白だった。
中国・北京に、また新たな宇宙生物「竜球」が出現したのだ。
故宮を破壊しながら進む映像が、国会モニターに映し出されている。
議場はざわめき、議員たちは落ち着きを失っていた。その中で、日本の総理大臣、小池さなえだけが、異様なほど静かだった。
「それでは、質疑を始めてください。」
緊急事態に議長の声が震えていた。すぐに野党第一党、国民中道党の党首、山名雄一郎が立ち上がる。
「総理、先日の記者会見での発言についてですが、WEF-Japanの設立経緯、そして自衛隊の海外派遣の判断根拠が依然として不透明です。国民は納得していませんよ。」
小池は、ゆっくりと頷き、マイクに口を寄せた。
「ご指摘の点につきましては、すでに申し上げておりますとおり、国際社会との連携を踏まえた上で、総合的に判断したものであります。」
山名は食い下がる。
「総合的、ではなく具体的に答えてください。いつ、誰が、どのような手続きで決めたのか。国会軽視ではありませんか?」
小池首相は、少しだけ目を細めた。
「その点につきましては、現在、政府内で精査を進めているところでありまして、現段階で確定的なことを申し上げるのは適切ではないと考えております。」
議場からため息が漏れる。山名はいらだち机をたたいて言った。
「総理!中国で宇宙生物が暴れている最中に、あなたは何を隠しているんですか!」小池は、ため息をつくようにマイクへ口を寄せた。
「国際社会は、いま未曽有の危機に直面しております。
ですので、もう少し具体的に申しますと、その中で、我が国が生き残るためには、従来の枠組みにとらわれない判断が必要ということですね。」
議場がざわつく。山名がさらに机を叩く。
「従来の枠組み?それはどういう意味か!」
小池は、わずかに笑った。
「国民の生命と財産を守るために、例えば憲法九条の必要な改正検討すべきであります。」
議場が一気に騒然となる。
「改正“すべき”だと!?」「総理、正気なのか!?」
しかし小池は、さらに踏み込んだ。
「中国の状況を見れば明らかです。
もはや、国単位の防衛では限界がございます。
我が国が、より強大な枠組みの中に身を置くことは、極めて合理的な選択肢であります。」
議場が凍りつく。
山名が震える声で叫ぶ。
「強大な枠組み……?総理、それはつまり――」
小池は、はっきりと言った。
「アメリカ合衆国の一つの州となることも、国民の安全と繁栄を守るための選択肢の一つであります。」
議場が爆発した。
「な、何を言っているんだ!!」
「日本を売る気か!!」
「総理を止めろ!!」
「議長!議長!!」
議員たちが席を離れ、前列へ殺到する。秘書官たちが慌てて首相席を囲む。議長は木槌を叩き続けるが、怒号に飲み込まれていく。
「静粛に!静粛に!!」
しかし誰も聞いていない。机が揺れ、書類が宙を舞い、議員同士が肩を掴み合い、押し合い、怒鳴り合う。議場は、もはや“議会”ではなく“暴徒化寸前の群衆”だった。
その中心で、小池だけが――微笑んでいた。
「国民の未来のために、最善の選択肢を検討する。それが、私に課せられた責務であります。」
その声は、混乱の渦の中でも不気味なほどはっきりと響いた。
まるで、すべてが“予定通り”であるかのように。




