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桜の開花が間近いとは言え、まだまだ夜明け前の空気はキーンと冷たい。
その寒さの中でも震えることのない、ぞうの形をした滑り台が静かにたたずむ飛鳥山公園。
夜明け前の静寂を破るように、国連地球防衛軍日本支部(WEF Japan)の隊員、神楽坂瑠璃はランニングをしていた。
朝靄がまだ濃く残る飛鳥山の起伏に富んだ園内を、瑠璃は軽快な足取りで駆け抜けていた。ひんやりとした空気が肺を満たし、肌を撫でていく。
足元では、まだ眠りから覚めきらない草木が露に濡れ、時折、早朝の鳥の声が静寂を破る。古くから桜の名所として知られるこの公園は、江戸時代には徳川吉宗が鷹狩りの際に立ち寄ったという歴史を持つ。今は、子供たちの賑わいと、静かな自然が共存する憩いの場だ。
瑠璃の視界には、黎明の柔らかな光に包まれた、緩やかにカーブを描く遊歩道、その脇にそびえる桜の木々のシルエットが、映っていた。彼女の走るリズムに合わせて、木々の葉が風にそよぎ、柔らかな葉擦れの音が心地よく響く。
しかし、彼女の心は、まだ見ぬ未来への不安と、自身の能力への劣等感で重く沈んでいた。
すると突然、瑠璃はまばゆい光に包まれた。
「な!、何!」
瑠璃が立ちすくんでいると、声が聞こえた。
「私は全宇宙連邦の者です。名前はとても長いので、とりあえず宇宙警官と呼んでください」
「はぁ?そのままじゃん!」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めてないけど……」
「今、この星、みなさんは地球と呼ぶようですが、宇宙で指名手配を受けている犯罪者、タンバル星人ダマリナが、この星、特にこの日本という場所に潜んでいることがわかりました。しかも凶暴なペットを連れています。このペットは普段はおとなしいのですが、興奮すると手が付けられず、本来の食欲旺盛が出ると、このままだと地球人を食い荒らします。さらに、もしこの星が気に入ったら仲間を呼び寄せる危険もあります。私は全宇宙連邦からダマリナの処分命令を受けているのですが、このままの姿では地球に滞在できません。どうかご協力を願いしたいのです」
瑠璃は困惑した。
「協力を願いたいって、どうすればいいの?そもそも国連地球防衛軍本部に申し出ればいいじゃないの?しかもあなた一人なの?」
「私は身体を電子分解して、あなたのスマホの中に滞在できます」
「私の質問に答えてない!」
「では、よろしくお願いします」
宇宙警官の声が響くと、瑠璃を包んでいた光が消えた。
「なかなか住み心地の良いスマホですね」
「ちょ、ちょっと!」
瑠璃がスマホの画面を見ると、宇宙警官の顔が映っていた。宇宙警官の顔は銀色で硬い感じで目は光っていて、昔からある特撮ヒーローのように口は動かない感じだった。さらに頭の上には3枚のとさかのような物がたっていて、さらに頑丈そうな兜をかぶっている。
「キャー!」
「そんなに喜ばないでください」
「喜んでない!そもそも私のスマホの中を勝手に読むな!」
「それに東峰さんというのは?彼氏ですか?」
「こらこらー!」
「なんなんですか?」
「なんなんですかと言われても……ん?関係ないでしょ!それより速くスマホから出て行って!」
「では、とりあえずおとなしくしてますね」
瑠璃は呆然と立ちすくんだ。そして、スマホの画面を見ると、宇宙警官は、彼女のスマホの中でくつろいでいた。




