第8話
まずはスープ。
野菜屑と骨からとろうかと思ったけど、ポシェットから粉末だしが出てきたのでこれも加える。だしは多いほうがよろし。
根菜類を小さく切ってコトコト柔らかくなるまで煮込む。醤油と味噌で味を調え、ひとまずは終わり。
メインは肉野菜炒めのアレンジ。
野菜を炒めて軽く塩とスパイスを振り、器に盛る。
肉は薄く粉を振って焼き、取りだして、残った油に醤油を投入!
ジュワーッと音を出して醤油が焦げた。
「うわー! 懐かしい匂いですー!」
「なーん!」
パーラとプールが喚いてるよ。そうか……醤油の焦げる匂いが懐かしいのかー。
動物に濃い味付けはいけないはずなんだけど、六百歳くらい生きているので使い魔には関係ないみたい。
さらに赤ワインと調合スパイス(匂い的にニンニクとタマネギがブレンドされてるっぽいのでセレクトした)をふりかけ、味を調えてから肉を戻してからめ、野菜の盛った皿にたれごとかける。
「ふぃー、使い慣れない場所で作ったにしてはどうにかなった」
「さすがご主人様! 天才!」
「なーん!」
ふたりが大喜びしてますよ。
籠にパンを盛りつけて、バター的な何かも小さい容器に入れて、スープも器に盛ったらバター的な何かの欠片をポイと入れる。うん、いい匂い!
「はわー! さすがですご主人様~」
「なぁ~ん」
あ、スープも飲むのねキミタチ。慌てて器に注いでバターを放り込む。
「スミスさーん、できましたよー」
台から降りた私が言ったら、
「「「「えーっ!」」」」
って非難の声が上がった。
「なんでリーダーだけ!?」
ってオタクさんが言うので答えた。
「リーダーさんは、買い物に一緒に行って材料費を全部出してくれて、そのときに『自分の分も作ってね』って頼まれたんです」
「ちょ、ズルくない!?」
って女装さんがスミスさんを責めた。
「ズルくねーだろ。俺が『面倒みてやる』って連れてきて、俺が買い物に付き合った。お前ら、最初は反対してたじゃねーかよ」
オタクさんが挙手する。
「反対してませーん。それに、そこの魔導具は俺が作りましたー。使い方を教えたのも俺でーす。なんなら改良する予定でーす」
「えっホントに!?」
最後のセリフに驚いた。
さすがオタクさん! さすオタ!
「サーシイが使うなら、サーシイ用にもっと使いやすくするよ。だから、俺の分も作って!」
「材料費の大半はスミスさんが出したので、スミスさんがオッケーならいいですよ」
調味料は私だけどね。
スミスさんが肩をすくめる。
「今回はオゴリな。次回からお前も出せ。どうせ改築費はクランのプール金を使うんだろ?」
「そこはもちろん! でも、ちゃーんとサーシイの使いやすいように作りあげるからさ!」
「……来たばっかりの幼女仕様にしていいの?」
と、思わずツッコんでしまった。
「ちょっと! それなら私だって、サーシイちゃんにお洋服をプレゼントする予定よ! もし料理を作ってくれるなら、永久無料にしてあげるわ!」
「お料理、頑張りますね!」
お洋服、ほしい!
だって女の子だもん!
「では、私は彼女に知識を授けようではないか! このクラン唯一の知識人である私、セオ・ハラクが、全てを教えよう!」
白衣っぽい服を着て眼鏡をかけたインテリ風イケメンさんが割り込んできたよ。
「ゆえに、その対価として料理を所望する!」
「あ、はい。錬金が知りたいです」
と、うなずきながら言った。
そして、ふと思いついたので言う。
「あと、魔術と魔法の違いも」
インテリさん、その言葉にちょっと固まったが重々しくうなずく。
「よかろう。教えてしんぜよう」
あ、魔法も教わることができるかも。よかったあ。
和気藹々と、
「じゃあ、同じのでいいですか? パンは足りないかも」
「パンくらいは買ってくるわよ」
「ドリンクも用意しておこう」
「俺、簡易的に床を底上げしとくから」
と、話してまとまったら。
「ちょ、ちょっと待て……」
と、小さい声で誰かが引き止めた。
「おや? 誰かと思えばソーン」
スミスさんがニヤニヤしている。
「お前は面倒見なくていいぞ。俺が現在進行形で面倒を見ているから。ホラ、行った行った」
スミスさんが追い払うように手を振る。
「スミスさん、すごく嬉しそうですね」
私が言う。
「その短気で大損したなって思ったらな」
損したんだ?
「次に活かせるといいですね!」
と、締めくくる。
すると、
「……わかったよ! 俺が悪かったって認めればいいんだろ!?」
ってキレられた。
女装さんが呆れている。
「確かにアンタにしたら成長だけど……」
そうなんだ?
間違いを認めない人生は生きづらそう。
でも、それもまた人それぞれだよね。
「無理しないほうがいいですよ。思ってもいないことを口にしたって、つらいだけですから」
と、諭しておいた。
スミスさんが大笑いだ。
「だとよ。素直に謝罪して、己の利用価値を示せとさ」
え? そんな話なの?
無理して偽っても苦しいだけって話でしょ?
しかも、私が睨まれている。
「え? え?」
戸惑って、スミスさんの影に隠れた。
「おい、ソーン。さすがに看過できないぞ」
スミスさんが急に怖い声を出した。
すると、睨んできたオジサンが、ハッとしてうつむいた。
「サーシイをこのクランに加入させると、俺が決めた」
「はい」
「加入と脱退についての権限は、クランリーダーの他には本人のみに有効だ。理解しているか?」
「はい」
「俺が連れてきて、俺が加入を決めたクランメンバーを、お前はなんの権限で追い出そうと画策する?」
「申し訳ありません」
すごい! すんなり謝罪してるよ!
目を丸くしてしまったら、女装さんが噴き出しそうになってる。
「そんなに驚くの?」
「無理して謝ってもつらいだろうなって思ってたら、流れるように謝罪が出たので……」
オジサンは完全にうつむき、スミスさんは片手で顔を押さえた。
「……はぁ。決まらなくなったんでこれで済ますけどな。次に同じ事を言わせるなよ、ソーン」
「はい」
「……で、お前は次にどうする?」
「…………」
オジサンは顔を上げて私を見ると、頭を下げる。
「言い過ぎました。謝罪します」
ええ……?
「あの……オジサン、無理して謝らなくていいですよ? ストレスを溜めると、ハゲますから」
全員が硬直した。
「リーダー。俺、やっぱりコイツに謝りたくない」
と、オジサンが私を指しながら言う。
「言っておくが、最初にひどかったのはお前のほうだ。俺は親切にしてるんで『お兄さん』と呼ばれている」
「コイツ、権力者に媚びるタイプじゃねーかよ!」
って憤られた。
あ、うん。それは確かにそう。
話し込んでいたら、誰かが入ってきた。
「なんかいい匂いがするんだけど!?」
「オイオイまさか……誰か料理してんのか!?」
一人は見るからに美女、一人は見るからにタラシっぽいイケメンだった。
二人と目が合う。
「ちょ……ちょっと! かわいい子がいる!」
と、美女さんから言われた。
「俺の守備範囲からはちょっとばかり離れてるなー……って! 誰だよこの子!?」
「俺が連れてきてクランに加入させた。俺が面倒をみるからな。あと、料理はこの子が作った。食いたいなら頼みこめ」
「「ええーっ!?」」
スミスさんの言葉に二人が驚く。
「ちょっとリーダー、やるじゃない! 小さくてかわいくて料理が上手なんて属性盛りだくさん過ぎ!」
とは美女さん。
「リーダー、やるときはやるじゃないか!」
とはタラシイケメンさん。
そんなに料理人を求めてたんだ……。




