第6話
スミスさんが疲れたように呟く。
「……漏れ出してる魔力でも、サルヴィアよりも上。属性は……コレ、なんなんだ?」
「複数属性あるからこうなる。火、水、風、土、雷は持ってるよ。あとのはわかりにくいから、使えたら使えるんじゃない?」
と、オタクさんが答えてる。
「うん。魔術を習いたいってのは正しいな。そんでもって、【叡智の尖塔】に行ったらヤバかった」
「本当にそうね」
スミスさんと女装さんが深刻な声で言った。
「そっかー。属性とかあるんだ!」
前世の記憶があるから、そういうゲームっぽいの、知ってるよ!
メギラマとかでしょ? あれ? メラギマだっけな? 忘れちゃった。
魔法を覚えるのが楽しみになってきた。呪文をいっぱい覚えようっと!
次は、質疑応答だそうだ。
「名前はサーシイ、年齢は六歳、と。どこから来たのかは覚えてないな?」
「はい!」
覚えてないわけではないけど、パーラとプールについてきたので方向に自信がない。
「ちなみに、どこまで覚えてる?」
「パーラの声で我に返ったら違う場所に立ってて、パーラとプールが心配して近くに町があるからそこに行ってみようって言われてここに案内されました」
スミスさんとタラシさんが顔を見合わせた。
「違う場所――ってことは、前はどこにいた?」
「料理屋さん!」
スミスさんが苦笑する。
「そこは予想どおりか。で、その料理屋はどんな感じだったんだ?」
「小さくて、カウンターしかない感じです」
「他に人は?」
「私一人です!」
スミスさんが黙って頭をかく。
「とりあえずそれはいったん脇に置くぞ。で、料理ができるんだな。他に何ができるって覚えてることはないか?」
私は首をかしげる。
前世の記憶があるので、前世の記憶があることはできる。だけど、それは特別なことじゃない。ちなみに『料理ができる』ってのも特別なことじゃないと思う。
「……普通にできることはできるけど……。私にとって、『料理ができる』のは普通のことで、他にも裁縫とか掃除とかもできるけど、それは『できる』って言わないんでしょ?」
スミスさんが苦笑した。
「最後に特徴は……使い魔がいるってトコだ。その使い魔って何ができる?」
「パーラはおしゃべりできる、プールはよくわかんない」
「なぁああん!」
プールが抗議した。
「プールはご主人様の護衛ですよ! 不届き者はプールが血祭りにあげるんです!」
って言ってる。こんなちっこいのに?
「やっぱそうかー。危険な感じがしてたんだよ」
とはスミスさん。
こんなかわいいのに、危険な感じがしてたんだ……。
スミスさんが書いて、私にボードを渡した。
「じゃあ、これにサインをすればクラン加入になる。だけど、その前に」
スミスさんが真面目な顔になった。
「このクランは、俺がリーダーで俺の命令には逆らわない、クランメンバー同士は喧嘩しない、仲間を裏切らない、これらを守れば好きにしていいことになってる」
そうなんだ?
私は首をかしげた。
「喧嘩って、具体的にどんな感じなんです?」
すると、スミスさんではなくオタクさんが答える。
「何を言われても言い返すなってことだよ」
スンとした顔だ。
「ちょっと、フェルム」
女装さんがオタクさんを窘める。
「言っておいたほうがいいだろ? 絶対にブライに攻撃されるよ。決定権なんか持ってないくせに『認めない』とか言ってんだから。ちなみに、俺も言われたしセオも言われたけど」
ふーん……。
「つまり、いじめられっぱなしになってろってことです?」
と尋ねたら、スミスさんが首を横に振る。
「感情のまま言い合うなって言ってる。理性的に反論するのは止めてないぞ。互いに誤解もあるだろうし、相手の言動に腹が立つこともあるだろうが、集団生活なんだ。互いに一歩譲れって話さ」
ふむふむ。
「スミスさん以外の人の言うことは聞かなくてもいいってことですね?」
「まーな。俺がいないときはコイツがサブリーダーだが、決定権は俺だけにある。そう決めたからな」
と、女装さんを親指で指す。
「ちょっとお待ちを。あなたがご主人様に理不尽な命令をしないという保証はありません。その内容ではうなずけませんよ」
と、パーラが口を挟む。
スミスさんがうなずいた。
「そりゃそうだな。言い方が悪かった。何かをしてもらうのは、基本頼み事だ。命令ではない。俺の言う命令ってのは、クランの決まり事に関してだな。……今回で言うならサーシイをクランに加入させる、ってのは俺に決定権があるし、サーシイがクランに不適合だと判断した場合は脱退させる。この決定権が俺にあるんだ。反対しようが、俺が決めたのなら逆らうなってこと」
「ふむふむ。では、ご主人様に命令する人はいないと考えていいのでしょうかね」
「……共用部分は散らかすな、万が一散らかしたら自分で掃除しろ、くらいは命令するぞ? あと、掃除当番もあるからな」
と、スミスさんが予防線を張っている。
「そこは集団生活での決まり事ですから命令の範疇に入りません。逆に決まり事は最初から取り決めをしておいていただければ、ご主人様もやりやすいかと思いますね」
パーラが賢い……!
私なんて、ポカーンとして聞いてるだけだもん。
あ、オタクさんもポカーンとしているわ。同志よ!
「そこは、私ともう一人が説明するわ。各自行うことと、共用部分の使い方とかはこの後説明しながら案内するから」
「はーい」
返事をした。
「あとは……。記憶喪失ってことだから、軽くこの町を説明しといてやる」
と、スミスさんが言った。
「ここの主な収入源は、魔物狩りだ。それに付随する、たとえば怪我をしたときの傷薬なんかもよく売れる。武器、防具の店なんかも多い。だから腕自慢の奴が来たりする。【叡智の尖塔】もそのクチだ」
「へぇ~」
「とはいえ、新入りや旅人はあまり訪れない。何もないところだし、なんなら周辺には魔物が多く生息しているから危ないんだよ」
なんと。
人が来ない町に幼女がやってきてしまったのか。そりゃ警戒されるわ。
「サーシイが望む、料理人のクランみたいな呑気なクランはないって思ってくれ。だいたい大手クランは戦うクランだ。あるいは鍛冶クランだな。錬金クランなんて名ばかりで、ハッキリ言って商売しているだけだ」
「ひょえー」
殺伐とした町だなあ……。バトルばっかりしてるのか。荒くれ者の町じゃない。
「そんな中、我ら『灰羽の竈』は好きなことを好きなようにやっていいクランだ。弱小だし、薬や魔導具を作って売っている奴もいれば、そのための材料を採取して卸している奴もいるし、もちろん魔物を狩る奴もいる。サーシイの面倒は、ひとまず俺がみてやるから。適性が見つかったら、それで稼げ。わかったな?」
「はい!」
スミスさんが、すごくいい人だった!




