第3話
パーラが口を挟む。
「もしや、ご主人様にあらぬ疑いをかけました?」
私はハッとして受付の女性を見ると、無表情のまま黙っている。
つまり、肯定。
……まーねー、記憶喪失の幼女が使い魔を連れてやってきたとか、怪しすぎるもんね。
それはいいとして、その検査でいったい何がわかるの?
「その検査を受けると、疑いが晴れるの? ……っていうか、私は何を疑われてるの?」
そこを聞いてみよう。疑いが晴れるのなら検査を受けてもいいけど。
受付の女性は何も言ってくれない。
代わりに男性が質問してきた。
「お嬢ちゃん、魔物と戦ったことは?」
「魔物を知らない」
パーラとプールは知ってるのかもしれないが、私はここに来るまで魔物には遭わなかったよ。
「「えっ……」」
二人が同時に絶句する。
「す、スライムとかもわかんねーか?」
「うん。何も覚えてないの」
「「…………」」
受付の女性が無表情に黙り、青年は考え込む。
「ソイツらが魔物なのはわかるか?」
と、パーラとプールを指すので否定した。
「違うよ。鴉と猫だよ」
「うん、重症だ」
青年がキッパリ言ったわ。
「検査では、魔物と戦ったりするんだよ。戦い方はわかるか?」
「もちろんわかんない!」
幼女が戦えるワケないだろ!
魔法、忘れたって言ってるだろ!
「……って奴を戦わせるのかよ? それで死んでもコイツの責任とか言うなよ? 説明を、敢えて省いたお前の責任だぞ、マリン」
「はい。承知しておりますが何か?」
受付の女性は軽く返事したので私は硬直した。
死んじゃうってナニさ!?
検査で戦うって意味がわかんないんだけど……。
なんかこう、身長とか体重とか視力とかの測定じゃないの?
青年が、さらに詰問している。
「しかも【叡智の尖塔】って、一番クソじゃねーか。あんなトコにこんなちっこい子を入れたら、一生雑用でこき使われるぞ」
え、【叡智の尖塔】ってクソなの? 名前的にはいい感じなんだけど。
「見解の相違です。あのクランは最大手の一つで、魔術を学ぶにはいい環境です。使い魔がその年齢でいるということは将来有望。ですから勧めました」
「この年齢で使い魔がいて、しかも記憶喪失って連中が知ったら、良くて一生雑用、最悪使い魔を消される。それがわかってて入れようとしてるだろうが」
私とパーラとプールが飛び上がる。
「【叡智の尖塔】はやめます! 普通に暮らしていけそうなクランに入りたいです! ……あ、料理はできますから、料理クランとかでもいいですよ!」
と、挙手して言った。
青年が呆れた。
「料理ができるゥ? 記憶喪失なのにか?」
「手で覚えたことはなんとなくわかる、気がします。パーラとプールを飼ってたのも覚えてます。名前は覚えてませんでした」
「……あー……」
青年が納得したが、パーラとプールが抗議する。
「飼ってるって! 違いますよ! 私どもはご主人様に仕えてるんです!」
「なーん!」
そうなんだ?
でも、その細かな違いはわからない。
「なら、うちのクランに入れよ」
って青年に言われた。
「ちっちゃいのに料理ができるなんて立派だ。魔術を学びたいなら、うちでも基礎的なことは教えてやれるしな。うちなら検査なしで入れるぞ。どうだ?」
ちょっと首をかしげる。
よくわからない。けど、親切な人っぽい。
「じゃあ、お世話になります!」
「「早」」
青年だけでなく、受付の女性まで声を揃えて言った。
クランで検査してもらえることになり、私は青年と手をつないでクランハウスなる場所へ行く。
「覚えてることはないのか?」
「名前はサーシイ。魔法が使えたみたいです」
「魔法?」
「魔法!」
「魔術じゃなくて?」
「違いがわかんないのです。一緒じゃないの?」
「うーん……。魔法は『失われた法則』だからなー。俺も詳しくない。魔術が何かって言われると……。手や足を使うように、己の魔力を使うことかな。魔力を持っている奴なら、感覚を掴んで理論を学べばだいたい使える」
「へー!」
つまり、魔術というのは『誰でも使えるようにした魔法』なのかな。
「それを覚えれば、箒で空も飛べるかな?」
ちょっと憧れている。
今世の私は飛んだのかな。飛んでない気がする。だって、引きこもりだったらしいんだもん! そんな目立つことはしないだろう。
青年が笑う。
「ハハハ! サーシイはおもしれーな」
『おもしろい女』って言われちゃったよ。
「私に惚れたらダメだよ?」
「アハハハハ!」
大笑いされたし。
「そういえば、お兄さんはなんていう名前?」
青年が私を見て笑う。
「お前、わかってるな」
「なにが?」
何もわかってないけど。
「お兄さんは、ジョン・スミスっていうんだ」
「偽名?」
つい言ってしまった。
すると笑って誤魔化す。……やっぱり偽名なんだ。
連れられて、着いたところは寂れた通りの奥にある、けっこう大きい家だった。
「ようこそ、『灰羽の竈』へ」
って、言われ、案内された。




