第21話
プールに追加でひき肉を作ってもらって肉味噌を作った。
生姜っぽい香りのする香草があったのでそれを使う。
「うん、いい香り」
ヘトヘトっぽいタラシさんが厨房にきた。
「それが夕飯?」
「ううん、これは作り置き。少し置いたほうが味が調うの」
会話していたら、いつの間にか戻ってきたパールがシンクに舞い降りる。
「わー! ご主人様のトッピング肉ですね! 大好物です!」
「記憶にない私って、なんでこんなの作ってるんだろうね? 料理の研究でもしてたのかなあ?」
これは、前世の料理屋でお通しで出してたのよ。キャベツやピーマンと一緒に。
『これだけで酒が飲める』とか言われてお代わりを所望されたくらいに人気だった。
……のを作れるのは記憶にあるからなんですが、その記憶がない私が作ったのがすごいわあ。
食べさせる人なんて、パーラとプールだけだったんでしょ?
なのに作りあげたのか。料理人でもないくせに。
「あ、コヤツにも分けてあげてください。ご主人様のために頑張ってましたから」
と、翼でタラシさんを指す。
「そ、そうなんですね……ごめんなさい。手に入るだけでいいですから。別に、なくたって死にはしないし」
それを作れないだけだもん。
「いいよ。サーシイのおいしい手料理のためなら本望さ。でも、その代わりご褒美がほしいかな」
と、ウインクしてきた。ウインク、好きだなあ。
「わかりました! えっと、これは、野菜につけて食べるんですよ。味が濃いから、少し乗っけて食べてみてくださいね。……って、まだ食べられないんですけど」
冷ましてちょっと置いたほうがいいのは確か。
「じゃあ、夜食にするよ。夕飯は別なんだろう?」
「うん。そっちはちゃんと出来立ての温かいのです」
楽しみにしていると言ってタラシさんが去っていった。
パーラを見る。
「もしかして、一緒に行動してたの?」
「そうです。食材が手に入らないのは死活問題なので、協力してました。輸入している商人がいるので、そこと話をつけてましたね。見返りを所望されましたが、大したことはないようです」
死活問題ではないでしょ。
「見返りって?」
「それが、この町の特色です。明日、勉強会でしょう? そのときに教わるでしょう」
って言われたわよ。むぅ。
いつの間にか食堂にみんなが揃っていたので慌てて夕飯を作成する。
夕飯は、トマト(ではないがトマトっぽい果実の)ソースのニョッキと、豆を甘辛く炒めたものと野菜スープ。
「サーシイちゃんを拾って持ち帰ってくれたリーダーに感謝だわ」
と、美人さんがトマトソースをパンで拭いながら言った。
「連れて帰る可能性があったの、俺とサルヴィアとリーダーだけだもんな……。そのうち俺とサルヴィアは納品でいなかったしね」
とはタラシさん。
うん、そうだよね。
今は地雷さん以外優しいけど、初対面から壁がなかったのはスミスさんと美人さんとタラシさんだけ。
美人さんは、小さい子が好きみたい。タラシさんは人当たりが良くて仲介役を苦と思わない感じ。スミスさんは優しすぎて面倒見のいい人。
というか、その三人が特別人当たりが良いのだと思う。普通は女装さんとか地雷さんの反応が正しい。オタクさんとインテリさんはリーダーにお任せタイプだしね。
食べていると、スミスさんと地雷さんが通りかかる。
「……外で食ってくるわ」
と、元気なくスミスさんが言う。
「今日はもうキッチンを使わないので、使っていいですよ」
と言ったけど、
「作る気力がねえ」
って返された。体調が悪いのかな?
出ていく二人を目で追いかけた後、質問した。
「私が来る前って、本当に誰も料理してなかったんです?」
みなさんが顔を見合わせた。
「ここでは、したことがないわね」
と、女装さんが答えてくれた。
「前は、マーロウが携帯食を仕入れてそればっかりだったわ。あとは、私が栄養ドリンクを作って配っていたの」
パーラとプールがその言葉に反応して美人さんを見る。というか、全員反応してビクッとなった。
「これが不評だったんだけどね」
と、美人さんが続けた。
「リーダーは、かろうじて作れるけど焼くだけだからね。あとは全員作れない」
女装さんがため息をついた。
「……世の中に、おいしいものがあるってのは知っているのよ。この町以外なら、料理のおいしいお店もあるってわかっているわ。でも、この町にかぎっては、おいしくないの」
続きをインテリさんが語る。
「しかも高いのだ。……パンが一番マシだ。スープなんて、煮え油を飲んでいるか煮え湯を飲んでいるか、その違いしかない。肉を焼いたものは板をかじっているかのようで、野菜は大きく切られたものがゴロゴロと置いてあるだけだ。味付けなどない」
…………。
パーラとプールも驚いたようだ。
ふたりが顔を見合わせている。
「たまーにマーロウが日持ちのする食べ物を仕入れてきてくれるのが、涙が出そうにおいしいわよね」
「リーダーも料理が得意とは言えないし、あれでも忙しいから皆の分を作ってる暇はないんだよね。わかってるから諦めて外のマズメシを食ってる」
と、美人さんとオタクさんがしみじみと語る。
タラシさんが続いて語った。
「一番マシなのが宿屋なんだけど、宿屋だから客優先で、しかもソーンは悪態をついたもんだから出禁。とばっちりで俺たちも行けない状態。リーダーと俺が謝り倒して時折行けるようになったけど、よっぽどじゃないと行きづらい。特にソーンは、態度が悪かろうが客が減るほうが困るって店にしか行けないんだよね」
「つまり、すごーくおいしくない店」
「そういうこと」
うわぁ……。
「な、なんでそんなにひどい料理店しかないんです? 料理って、料理が好きな人が高じて店を開くって思うんですけど。特に、作った手料理を食べてもらいたいって人が開くんだと思うんですよ」
私が語ると、全員が感心したような顔をしたよ。
「ここに限って言うと、ギルドの命令でやってる感じだよ」
と、オタクさんが言った。
美人さんが続けて言う。
「命令ってのは言い過ぎだけど、そうすればギルドから手当が出るからやってるって感じよ。この町にいる人は、料理を作りたいって思ってないのよ」
なんか、とんでもない町なんだな。
理由がありそうなんだけど……。明日、インテリさんに質問しまくろう。




