第19話
スミスさんが頭をかいている。
そして、私に謝った。
「ごめんな。サーシイの言うとおり、反省してるからちょっとだけ改善してんだよ。今までなら他人の苦労なんて絶対に認めなかったのにサーシイの大変さを認めたんだから大躍進なんだ」
「私はいいんですって。記憶がないから大変だった思い出も何もかもないんですもん。苦労してるのはパーラとプールなので、謝るならふたりにお願いします」
なんとなく、記憶をなくす前の私はヤバかったんじゃないかと思う。
パーラとプールは、記憶を取り戻してほしいかんじではなく、当たり障りのない過去のみしか語らない。
外に連れ出して、新たな思い出を作らせようとしている。
だから、ぶっちゃけ大したことのない地雷さんの言動に過敏に反応している。
なんかあって引きこもりになって、孤独でいすぎてボケちゃって、パーラとプールが心配したんだろうなーというのが伝わるのよね。
スミスさんが私の頭を撫でる。
「わかった。サーシイが気にしない子でよかったよ」
私はスミスさんを見上げると、手招きした。
そして、貯蔵庫からそっと包みを出す。
「……ナイショですよ。サンドイッチ……じゃなくて、パンにお昼に食べた具を挟んだものです。部屋でコッソリ食べて」
シーってしながらコッソリ渡した。
「…………。ありがとな」
「スミスさん、私はこのクランに入れてもらってよかったです。パーラとプールが過敏に反応しちゃうけど、許してください。私を守ってくれてるんです。……私のなくした記憶、パーラは語りたがらないのであんまりよくないんじゃないかって思ってて……。だから、ここで新しくいい思い出を作りたいんです」
「わかった。サーシイは大らかだからメンバーと仲良くできるはずだ。俺としちゃ、ソーンともいいコンビだって思ってる。……ソーンはかなり反省してるんだけど、それが表に出せるようになったら、使い魔たちに取りなしてくれると助かるよ」
「うん。パーラとプールに特別なご褒美を作ってあげて、食べさせればきっと機嫌を直すと思う。ちょっと待っててくださいね」
スミスさんが小さく笑うと、私の頭を再度撫でて部屋に戻っていった。
「サーシイちゃん、優しーい」
コッソリ見ていたらしい女装さんが笑いながら言った。
「スミスさんには恩しかないので!」
「じゃあ、アタシも『恩しかない』って言われるよう、衣装作り頑張っちゃうわ」
「わーい! 期待してます!」
なんだかんだで女の子だもん。お洋服大好き!
しかも、見た目もかなりの美幼女に転生してるので、魔女ルックよりかわいい服を着たいのよ!
「任せておいて!」
女装さんがウインクして部屋に戻っていく。
それを見送った私は気合いを入れてガッツポーズした。
「さて。私も研究せねば!」
自分の前世の知識と今世の食材のすり合わせをしないと、手持ちの材料ばっかり使うことになっちゃう!
いつ錬金で調味料を作れるようになるかわかんないので、今ある食材でもおいしいものを作れるようにしなければ!
「ご主人様、私は偵察に行ってまいります」
と、パーラが言う。
飛び回りたいのかな? 鳥だもんね。
「あ、うん。いってらっしゃい。日が暮れる前には帰ってきなよ?」
「はーい。プールが護衛しますので、ご主人様はご安心を!」
「なーん!」
プールが張り切って鳴いた。
「いいよ、猫は寝てなさい」
プールをちょっと狭めの棚に押し込むとグルグル言いながら座ったし。やっぱり猫は狭い場所が好きよね。
*
「だいたいわかったかな!」
色や形が違ったりしたものもあるけど、前世の記憶にある食材と同じものがある。似た感じので代用できそうなのもある。
ちょっと作ってみて、だいたい同じだなって思ったし、いけそうな気がする。
ただ、醤油と味噌に関しては難しい。記憶を失う前の私は麹を錬金かなんかで手に入れたみたいよ? 日本酒も造ってたぽいし。前世の記憶がないのにどーやったんだ。
「米があるはずなのよねー。これも『ほしいものリスト』に入れておこう」
乳製品は植物性らしい。バターも生クリームも牛乳も簡単に手に入る。使い勝手も同じだった。このあたりは前世でもあったね。マーガリン、植物性クリーム、植物性ミルク。これらよりもこの世界の乳製品のほうが牛乳に近い感じ。
卵は……この世界の鶏卵と同じものは、やはり植物性。乳製品も鶏卵も、どっちも植物の実。使い勝手も同じ。卵のほうが手に入りにくい。育てようかなとか思い始めた。……いや、もしかして魔女宅の庭に生えてたかもしれない。
「ねえプール。もしかしてコレ……手に入る?」
プールにソッと話しかけたら、プールが目を覚まし、卵を見てうなずく。
「なぁん?」
今いる? って尋ねられたので首を横に振る。
「ううん。場合によって、手に入らなかったら育てようかなって思っただけ」
プールがうなずいて、また寝る。寝顔がかわいい。碧い目なのが不思議だな。……いや、白毛碧眼の猫を黒くした私が悪いのだ。ごめん、いつか元に戻すね……。




