第18話
「ねえ、パーラとプール。スミスさんがいなかったら、酷い目に遭ってたみたい」
夢中で食べていたパーラとプールが顔を上げる。
「そうですねえ。私とプールがご主人様に仇なす者を成敗するので酷い目には遭わないと思いますが、恩はありますね」
「なーん」
パーラの返事にプールがうなずいた。
オタクさんが案を出す。
「見つからないようコッソリあげればいいんじゃない? あからさまな仲間はずれがまずいんだからさ。というか、今ここでブライを反省させないと、また同じ事を繰り返して今度はもっと大ごとになる気がする。そもそもリーダーが、ブライを甘やかし過ぎ」
「そうだ。私はクランの方針だから我慢しているが、腹を立てたことなど数え切れないほどある。今回のことも反省材料にすればいいと考えているな。もっと言うなら食べなくていい」
あ、インテリさんはパーラとプールと同意見なんだ。
女装さんが困った顔で私に言う。
「二人はあとから入ってきたから、ソーンがこう……厳しく指導したのよ」
「しょっちゅう『役立たず』って言われたね」
「私もだ。料理は作れないと伝えているにもかかわらず無理やり作らされ、『不味い』と言って目の前で捨てられたこともあったな」
「うわぁ……」
すでに不和があるんだけどな!? 食事のせいじゃないけどな!?
「……私、思ったんですけど、たかが食事の提供をしないくらい大した話じゃないじゃないですか。別に、買ってきたものを食べればいい話だし。確かにみんなが和気藹々と食事しているのに参加できないってのは不和を招きますけど、なら買ってきたのをここで食べればよくないですか?『食事中にここにくんな』なんてパーラとプールは言ってないし」
「そうですね。『ご主人様が提供する一切のものの利用を禁じる』と言っているだけです」
「なーん」
パーラとプールも同意する。
「なのに、なんでそれが不和になるんですかね? 今聞いた感じだと、それ以前の話なんじゃないかなーって思って」
シーンとしてしまう。
「私自身は気にしない派です。でも気にする派もいる。私は気にするパーラとプールを優先するので、パーラとプールが料理を食べさせちゃダメって言うならそのとおりにしますけど、別に喧嘩してるわけじゃないですし、地雷さんだって『そんなもん食わなくたっていつものとおりに料理屋で食べればいい』って思ってるかもしれないじゃないですか」
女装さんは首を小さく横に振る。
けど。
「スミスさんは気にしている人たちに『我慢しなさい』って言ってるみたいだけど、それなら私みたいに『じゃあもう提供しません』って言えばいいんじゃないかなって。きっと大したことないでしょ」
女装さんが困った顔のまま、私に語りかけた。
「あのね……。それはサーシイちゃんが自分の価値をわかってないから言ってるのよ」
「え」
価値?
「確かに、それが欠けても自分でなんとかする。それで回るわよ。でも、全員が支え合っているのに一人だけ欠けているのって、すごくつらいの」
そう、なの、かな?
「それがわかっているのなら、なぜ『そんなこと』って言葉が出るんですか!」
パーラがすかさず反論する。
「あの者は、ご主人様を愚弄しているんですよ! しかも、ご主人様の労力を大したことだと思わず、それを当然のものとして搾取して平然としているのです! とうてい許せません!」
「そこまで思ってないと思うよ……?」
パーラが大げさなんですが。
パーラとプールは、ぶっちゃけ食の恨みでしょ?
女装さんもパーラをなだめる。
「サーシイちゃんの言うとおり、そこまで思ってないし、あの子って感謝してても素直に言えないの。ううん、むしろ反対の言葉が出ちゃうのよ」
あーわかる。前世で言う『ツンデレ』でしょ? デレがないから『憎まれっ子』……って歳でもないから、『偏屈者』が妥当かな?
美人さんもタラシさんも困った顔だ。
オタクさんとインテリさんはスンとして、黙々と食べている。
そこに、スミスさんと地雷さんが帰ってきた。
「げ。タイミングが悪い」
と、スミスさん。情けない顔になってます。
「……ちなみに今食ってるのって、何?」
スミスさんの質問に、オタクさんがスラスラと答える。
「コカトリスを甘くてしょっぱい不思議な味付けで焼いたもの。サラダには何かすごくおいしいソースがかけてある。あと、何かを細かく刻んで煮込んだようなスープ。これも絶品」
「うぐぐ……」
スミスさんが唸ってる。地雷さんは暗い。
なぜ?
いつものお店で食べればいーじゃん。
昨日の昼までそうだったんだから。
飽きたとかなら、自分で作ったっていいじゃない。
厨房、今なら空いてるよ? 幼女仕様になっちゃってるけど。
「使いづらいかもしれないですけど、厨房を使って何か作ったらどうですか? 食材はタラシさんが買ってきてくれたからたくさんありますよ」
と言ったら、スミスさんがため息をついた。
「……最悪、そうするわ」
そして、チラリと地雷さんを見る。
「お前も作ってみたらどうだ? それで大変さがわかるだろ」
「……別に、大変じゃないなんて思ってない」
「ご主人様の料理を『そんなこと』と言っておいて今さら何を取り繕っているのだこの下郎!」
「グルルル……」
あ、パーラが怒り出しちゃった。プールもだ。
女装さんが頭を抱えているわ。
「俺は知ーらない。……おいしかったよサーシイ!」
「私は自業自得だと思うね。サーシイ、ありがとう」
オタクさんとインテリさんが食べ終わって立ち上がった。
「ちょっと、パーラもプールも落ち着いて。だいぶ素直に言えるようになったんだから、『成長したね』って褒めないと」
地雷さん以外が噴き出す。
地雷さん、私を睨んでくるんだけど……。
え、褒めたのになんで!?
「ご主人様は優しすぎます!」
「優しくねーよ! お前のご主人様こそ俺を舐め腐ってんじゃねーかよ!」
と、地雷さんがキレた。
「別に舐めてなんかいません。今までずっと憎まれ口しか利いてこなくていい歳になってしまったんでしょ? より偏屈で意固地になるオジサンになったというのに少し改善したのなら、褒めるべき案件だと思っただけです」
歳をとってから自分を変えるのは大変だからね!
オタクさんが振り向き、感心したように言う。
「パーラ、お前のご主人様、すごいよな」
「でしょー? 自慢のご主人様です!」
エヘヘー。照れるなあ。
「おいソーン。幼女のほうが大人だぞ。これ以上幼女に『大人げない』って言われないようにしろ」
「てめえら全員、反応がおかしいんだよ!」
地雷さんは叫ぶと部屋に戻ってしまった。




