第16話
スミスさんがパーラとプールに拝み倒し、妥協点をさらに探った。
だけど、パーラとプールの判定では、現時点では許さないらしい。
「そんなに許せないの?」
と、私が尋ねると、パーラとプールの表情が変化した。
パーラが真剣に訴える。
「ご主人様を利用し尽くし、罵倒するような輩を私とプールは許しません。しかも、今回は相手が『そんなこと』と言い捨てたのではありませんか。そんなこと程度なのですから、ご主人様が提供する一切のことは、あのような者に享受させる必要はありません!」
「にゃー!」
プールも同意すると鳴き、うなずく。
これを聞いたスミスさんが諦めた。
「……確かに、『そんなこと』っつったのはソーンだな。実際、餓死しろっつってるワケじゃねえ。サーシイの手料理が食べられないって話だ。今までどおり食いに行けばいい」
「数少ない料理店の、さらにあの悪態で出禁を喰らってない店でね」
「ワーヲ」
地雷踏みまくってるんだあ。
なんかちょっと気の毒になってきそうな性格だね。
治せないってのには同意します。
だってもうオッサンじゃん。無理でしょ。
*
話し合いが解決したので、私はタラシさんと買い物に出かける。
食堂には起きてきた美人さんと、ちょっとオコなインテリさんが仲良くお味噌汁を飲んでいた。インテリさんは二杯目だ。気を落ち着かせるために飲んでるみたい。
「買い物に行くの? ルージュから聞いたけど、錬金は私が担当みたいね」
と、美人さんが話しかけてきた。
「よろしくお願いします! ……なんですけど、今日は買い物に行った後はずっと料理してます」
「あ。……ごめんなさい。昨日の貯蔵庫に入っていた料理、食べちゃった」
「食べちゃったじゃないですよ! 今後勝手に食べたらご主人様に料理の提供をストップしてもらいますからね!」
「シャーッ!」
「「ごめんなさい!」」
二人が声を揃えて謝った。
「素直に謝れるって、素晴らしいですね」
と、思わず感想を洩らす。
美人さんは眉を下げ、インテリさんはフンッと鼻を鳴らす。
「『学習』という文字を知らないのだろう。私は知っているので分が悪くなったらすぐ謝罪する」
わぁ、気が合いそう。
「ああいった性格だって知っちゃえば気にならなくなるんだけどね……」
と美人さんが庇うと、
「私は気になる」
って、インテリさんが言った。
「私も気にならないんですけど、ふたりがダメなので、そうなると難しいです」
「ご主人様は優しすぎます!」
「なーん!」
ってふたりが言うので難しいのよ。
「まーまーまー。買い物に行こう。……そのことでさっき決定したことがある。リーダーから話を聞いて。俺はサーシイに付き合うから」
と、タラシさんが最後を二人に向けて言った。
*
タラシさんは、本当にタラシだった。
あちらこちらでいい顔をしている。でも、さりげなく情報を聞き出したり、うまいこと言って安く仕入れたりしている。さすがだなあ。
あらかじめ『記憶がないので食材もわからない。適当に買ってくれれば失敗するかもしれないけど調理はする』って言っておいたんだけど、そしたらありとあらゆる食材を買っているのよ。
今日だけの分じゃなさそう。
一週間くらいは保つかな。腐らせないようにしないとね。いや、そこも実験かな。何せ覚えてないもんで、何がどのくらいで腐るかもわからない。
「粉って、一種類なの?」
「種類があるのか!?」
って聞き返された。
なので、パンを作る用の粉とその他の粉は違うんじゃないかと言ったら調べて調達しておくと言われた。この町にはパン用の粉しかないらしい。
しかも、パン用の粉って、水を入れて捏ねるとふくらむらしい。簡単に焼けそうだけど、酵母のパンが食べたいなあと思い、酵母も育てて混ぜてみようと決意した。
思いついたことをメモしていると、パーラとプールが懐かしそうに目を細めた。
「ご主人様は、そうやってメモしていましたね」
「そこは変わらないみたいね。というか、性格は変わってないと思うよ?」
私は私だもん。
タラシさんが笑いかける。
「話を聞くかぎりじゃ、研究熱心で勉強熱心だったみたいだね。なら、セオとフェルムとも気が合うだろう。サルヴィアも、ある意味研究熱心かな」
「知りたがりなのはあるかも」
というか、なんもわかんないわりに前世の記憶があるので、若干必死かもしれない。いっそ全然知らなければよかったかもなって思うくらい、前世の食の知識が邪魔をする。
タラシさんが大量に買い込み、もう持てそうにないっぽいので帰途に着いた。
「ただいま戻りましたー」
と言いつつクランの扉を開けたら、そこはお通夜のようだった。
「……ソーンのせいで、食事抜きに付き合わされるとか、冗談でしょ……?」
「奴一人でいいだろうに……」
とか、みんなブツブツ言ってます。
あ、オタクさんを除く。
「まず、水の出口の調整をしたよ!」
と、元気よく教えてくれた。
「ありがとうオタクさん!」
さっそく厨房に飛び込んで、水を出してみる。
シャワーに切り替えると、勢いよくシャワーが出た!
「さすがです! ありがとう!」
「火の魔導具は、ちょっと手間取ってる。もうちょい待って」
「大丈夫です、火の調整は置き換えてやってるから」
「他にはある?」
そう言われたので、また思いついたことを口にする。
「水の魔導具って水しか出ないんです? お湯も出るとありがたいです。こう、ぬるま湯からそこそこ熱いお湯まで出ると、便利だなーって」
「…………」
オタクさんが黙った。
そして考え込み、ブツブツ言いながら部屋に戻ってしまった……。
「オタクさんに悪いことをしているのかな」
「その代わり、ご褒美をあげればいいでしょう!」
と、パーラが言った。
パーラ的には、オタクさんはご褒美(料理)をあげてもいい人らしい。
「俺にもご褒美ちょうだいよ。調達、頑張ったでしょ?」
と、タラシさんがウインクする。
「パーラの判定は?」
「ご主人様の所望する粉を入手したら考えましょう」
「よし任せろ! 探ってくる!」
飛び出していった。
「そんなに食べたいのかあ。むしろ、他の店の料理が気になってきた」
そこそこ大きな町で、いくつも料理店があるのに、たかが幼女の作る料理にこだわるのはなぜ?
しかも記憶喪失の幼女だよ? どんな食料があってどんな特徴があるのかもわかってないから失敗するっつってんのに、なんでそんなに食べたいのよ。今までどおり外食でよくね?
ちょっと不思議だなと思って首をかしげた。




