第15話
座学が終わるとスミスさん、女装さん、タラシさんが会議室に入ってきた。
全員、神妙な顔をしている。
「サーシィ、ちょっといいか? 買い物に行く前に話しておきたいことがある」
「あ、はい」
インテリさんは片眉を上げた。
「リーダー。……いいかげん、ブライばかり贔屓するのをやめたほうがいいと具申する」
「贔屓じゃねーって。喧嘩の話だよ」
スミスさんが苦い顔で返した。
インテリさんはパーラとプールをチラリと見た。
「どちらにしろ、サーシイに妥協を求めるべきではない。使い魔にはもっと無意味だ。使い魔は主人を最優先に考える。たとえリーダーの言葉であろうとも、主人を蔑ろにされたと感じたなら攻撃し、決して引かない」
パーラとプールが揃ってうなずいた。
インテリさんはさらに語る。
「今朝の話を聞いたが、ブライが悪いのは明白だ。……おおかた、サーシイがおとなしいと見てとって顎で使おうと企んだのだろう」
「おいセオ。言いすぎだ!」
スミスさんが叱ると、インテリさんが眉根を寄せた。
「たまには私も言わせてもらわないと、爆発しそうなのでね。……ブライばかりが何を言っても許される環境で、たまに陰口を言う程度も私には許されない」
吐き捨てると部屋を出ていった。
うわあ……。
険悪なんですけど!?
スミスさんは、困った顔でドアを見たけど、追いかけはしなかった。
というか、なんの話?
私が首をかしげると、スミスさんが切り出した。
「最初に伝えたよな。このクランは、俺がリーダーで俺の命令には逆らわない、クランメンバー同士は喧嘩しない、仲間を裏切らない、これらを守れば好きにしていいことになってるって」
私はうなずいた。
そして思い出す。
「あれ? でも朝に地雷さんがパーラとプールに喧嘩を売ってたよ?」
私の呟きを聞いたスミスさんが困った顔をした。
「ソーンは……喧嘩を売ってるつもりはないんだよ」
「えぇ……」
スミスさんの言葉に呆れてしまう。
「じゃあ、食べるのを楽しみにしていたのに食べ尽くされて、さらに『そんなこと』で片づけた地雷さんにパーラとプールが怒って攻撃したら、『パーラとプールが悪い』ってことになるんですか?」
と、ちょっと声が尖ってしまった。
「攻撃しないように言えないか? そのうちわかってくると思うが、悪気があるわけじゃないんだよ」
おっと。
これはよくない感じだ。
私は居ずまいを正した。
「悪意がなくても手を出さなくても、言葉だけでも攻撃はできます。あの地雷さんは、他人が大切にしていたものをうっかり壊しても『そんなことでいちいち目くじら立てるなよ、大したものでもないだろ?』って言うタイプです。それに激怒した相手が殴りかかって、それは『殴りかかった相手が悪い』じゃ、きっと相手はものすごく地雷さんを恨むし、そう判定した人たちのことも許せないと思います」
タラシさんが私の発言を聞き、困った顔でうなずく。
「ごめんリーダー。俺もそう思うよ」
「わかった、今のたとえで俺も納得した。……ただ、殴りかかる前に俺に言ってくれると非常に助かる。アイツを甘やかしてるのは理解している。でも性格はそうすぐには治らないんだ。頼む、手を出す前に俺に相談してくれ。で、どうしても殴りたいってときは、死なない程度にしてほしい」
お願いされちゃった。
「パーラ、プール、なんだって」
対するふたりの答えは。
「グルルルル……」
「約束はできませんね。次にご主人様を愚弄したら即、死なない程度に痛めつけます」
ということだった。
ふたりは死なない程度に痛めつけるモヨウ。
私?
あのくらいじゃ気にしないよ。接客業だったもん。
スミスさんと女装さんが顔を見合わせた。
「俺は今、食べたことを非常に後悔してる」
「奇遇ね、私もそう。……とはいえソーンもこれで反省するだろうし、憎まれ口も減るんじゃない?」
私は首をかしげる。
そういう性格の人は治らないよ。黙るか逃げるだけ。
スミスさんがパーラとプールを見た。
「サーシイは気にしてないだろうから、使い魔に妥協点を聞く。ソーンの食事をサーシイが作らないって罰以外で考えてほしいんだよ。期限付きならまだしも、ずっとはまずい。それはクランの不和を招く」
「……なんだって。どうする?」
と、私もふたりに尋ねた。
「では期限付きにします。ご主人様の下僕として今後尽くせば、働きによっては考えましょう」
パーラが王侯貴族みたいなことをまた言ったし。
プールもうなずいているわ。
スミスさんが眉間を指で押した。
「……謝罪させる。ちゃんと、誠意をこめてさせると約束する。それで収められないか?」
「グルルルルル……」
「死なない程度に痛めつけながらご主人様の下僕になると誓わせていいなら考えてやってもいいと、プールが言ってますね!」
プール、怖いわ。
あと地雷さんが下僕になるのは私が嫌です。
困ったなあ。私はパーラとプールを優先するし、そうすると恩があるスミスさんが困るし……。
「あ! 思いついた!」
私はポンと手を叩く。
「もう一人、食べられない人を用意すればいいんですよ!」
「「「は?」」」
みんながポカーンとする。
「誰かもう一人私の料理を食べない人がいれば、仲間外れにならないでしょう? 当番制でも申告制でもいいですけど、地雷さんとあと一人、私の料理を食べなければ、パーラとプールの要望は通るし、スミスさんの言う不和にはなりません!」
瞳を輝かせて案を伝えたら、パーラとプールが褒めてくれた。
「さっすがご主人様! 冴えてる! 賢い!」
「なーん!」
「エヘヘ~。ま~ね~」
照れるなあ。
スミスさんは絶句してます。
「それで丸く収まりますよ、ね?」
私が小首をかしげながら聞くと、タラシさんと女装さんがスミスさんを見た。
そして小さく応援する。
「リーダー、ソーンと励まし合って、強く生きてくれ」
「頑張ってね、ジョン」
「俺を生贄にするなよ!?」
スミスさんが声を裏返した。




