第14話
朝食が終わっても他のクランメンバーさんたちは現れない。
「みんな、朝は食べないし起きる時間もバラバラなのよ」
と、女装さんが言った。
私は今、女装さんの部屋でサイズを測ってもらっている。
女装さんに服を脱ぐように言われましたが、パーラとプールが大反対。
私としては、ちゃんとしたのを作ってもらいたいので脱ぐのもやぶさかでないけれど、パーラとプールには逆らわないので脱ぎません。女装さんもそれ以上言わなかったし。
「んー……。最初はいいでしょ」
って言った。
「サーシイちゃん、希望はある?」
「動きにくいのは嫌だなあ」
町の人は、あんまりオシャレじゃなかったし、スカート丈がマキシな人もいた。それは嫌。
「派手すぎるのは嫌だけど、地味すぎるのも嫌だなあ」
「その辺は大丈夫。いい感じにかわいいのを作ってあげるから。魔術師の服装じゃなくていいのよね?」
「それはこれがあるから。普通の服装をしたい」
その普通はよくわからないんだけど、浮かない程度にかわいいのがいいな!
「下着はどうする? 作れるわよ?」
「それはたくさんあるからいいや」
ダメになってから考えよう。
「じゃあ、作っておくわね!」
と言われたので部屋を出た。
これからどうしようかなと思ったら、スミスさんとイケメンさんがやってきたよ。
イケメンさんは、すぐに謝ってきた。
「ゴメン。勝手に食べた上に、片づけないで寝てしまって。……いつもは起きたら片づけてたんだよ。その癖で片づけなくて、サーシイちゃんに片づけさせちゃったね」
そう言われると、勝手に片づけたからなって思った。
けど、パーラとプールはご立腹。
「次に勝手に食べたら許しませんよ!」
「シャーッ!」
うん、片づけたことじゃなくて、勝手に食べたことを怒ってるんだね。
「で、さっきスミスから聞いたんだけど、一部の材料を持ち出しで使ってるんだって? しかも錬金で生成したってヤツ。おまけに、再現不可能のヤツ」
私はうなずく。
「さすがにソレは金を払わないとなって話になったんだけど……。売ってないんだよね?」
「記憶喪失なので……」
というか、町にきたことがないので売ってるかどうか知らない。
「今日の朝食に使った粉は、水で溶かしたものを焼いたんだけど、フワフワでモチモチで甘くてしょっぱかった。粉自体に何か調合されてるとしか思えない」
「うわー、そんなん調達したことないぞ。昨日の調味料も未知だったし。……ってことで、現時点では価格がつけられないんだよ」
原材料の値段を私に聞かれてもわからない。だって記憶にないんだもん。
「だから、サーシイちゃんが思い出す……かどうかわからないから、とにかく錬金の知識をつけてもらって再現してもらおうって考えた。もちろんできなくてもいい。記憶喪失なら、知識をつけるところを俺たちがバックアップするよ。調味料は……使う使わないは任せる。けど、料理は作ってもらいたいんだ。ダメかな?」
パーラとプールは特に抗議しないようだ。
「えと、うん。いいですよ。ただ、勝手に食べるのはダメです。パーラとプールが怒るから」
「わかった、徹底させる」
スミスさんがうなずいた。
オタクさんには夜食を作っておこう。作り置きは別途取り置かないと。
スミスさんが引き継いだ。
「ほしいものは俺に言えば買ってやるけど、高額の場合は別途相談させてくれ。あと、コイツのほうが買い物が上手いから、今後はコイツに食材の調達を頼むことにする」
あ、イケメンさんがまたウインクした。タラシだ。
*
さて。お次はお勉強です。
魔術は美女さんに教わるんだけど、朝に弱くてお昼まで起きてこないんだって。
なので、インテリさんに座学でいろんな基礎を教わることになった。
インテリさんも朝が弱いんだけど、お味噌汁を飲んだら覚醒したらしい。
「私には実践は無理だが、知識は誰よりもある。なので、理論の説明をし、あとはサルヴィアに任せよう」
ってことだった。
昨日検査を受けたお部屋で講義を受ける。ここは会議室らしい。
「まず錬金だが、これは魔術も使えないと話にならない。リーダーの話ではかなりの魔力量を誇るとのことなので、その点は問題がないだろう」
そうなんだ!
なんか、カエルとかヤモリとかを煮ているイメージ(実際、大鍋の爆発で幼女化したし)だったけど、そうでもないのかな。
「錬金術を一言で表すと、物体を別の物体に変化させる魔術だ。魔術なしでもできるが、魔術を使えば早い。また、魔術なしではとうてい不可能と考えられる物体を錬成することも可能だ」
「「へーっ!」」
私とパーラは感心した。
あ、プールもポカーンと口を開けている。
「錬金術の基礎を学ぶにあたり、まずは方向性を決めるべきだ。やることは、変化させたい物体に魔術をかけることは一緒なのだが、手順が違う。具体的には、サルヴィアとフェルムは、やっているのは錬金術だが作り上げる課程が全く違うのだ」
「そっかー」
私は美女さんに習うことになってるんだけど。
「料理に関わる錬金術にサルヴィアの錬金術が当てはまるかわからんが、フェルムの錬金術は付与魔術も使う。まずはサルヴィアから習い、方向性が違ったようならフェルムから習え」
「はーい」
薬品を作るほうが魔女っぽいしね!
という座学を学んだ。
インテリさん、説明がわかりやすくてさすがインテリだと思う。
そして、魔法と魔術の違いも習った。
「魔法とは、術者が望む‶結果〟そのものを、魔力によって直接成立させる現象だ。たとえば『木を燃やす』のであれば、火種を作り、形を与え、飛ばし、命中させるといった過程は本質ではない。重要なのは、『木が燃える』という結果そのものを世界に発生させることにある」
はぁ。
そうなんだ、としか言えない。
前世のゲームであったメガとかベラとかいう魔法は火の玉を飛ばしているイメージだけど、魔法は木が燃えるのなら火の玉を飛ばさなくていいってこと?
……って考えている間にもインテリさんの説明は続く。
「対して魔術とは、結果へ至るための過程を構築する技術だ。『炎よ』『槍となり』『あの木を穿て』――そのように、現象の性質、形状、挙動、対象を順に定義し、術式として積み上げることで結果へ到達する。つまり魔術は、結果を直接もぎ取る力ではなく、結果に至る道筋を記述し、成立させる体系だ」
「あ、はい」
うん、私の知っているメリとかメルとかいう魔法は、そっちだと思う。槍じゃなくて火の玉だと思うけど。
「この違いは、単なる威力の差ではない。魔法は事象そのものを改変する。さらに言えば、魔法の行使には魔力総量だけでなく、きわめて高度な魔力操作が要求される。しかもそれは理論先行の精密操作というより、ほとんど感覚に属するものだ。自らの内にある魔力だけで閉じるのではなく、外部に満ちる魔力にまで干渉し、取り込み、流れを制御しなければならない」
「「「…………」」」
私とパーラとプールが黙った。
そしてパーラとプールが非常に疑わしげな目で私を見る。
私にそんなことができるのかって顔だな。酷い!
「対して魔術は、詠唱や術式によって操作手順そのものを外部化できる。だからこそ学問として継承もできたのだ。現代では魔術師しかいないのは、そういうことだ」
と、インテリさんが締めくくった。
要するに――
魔法は、直感的な魔力操作によって、結果を直接世界に成立させる力。
魔術は、術式と詠唱によって過程を定義し、その積み重ねで結果へ至る技術。
と、いうことらしい。
つまり……魔女の記憶がない私は、魔法は使えないということです!
でも、魔術は習えば使えそうです!




