第13話
オロオロした女装さんが何か言いかけたとき。
「オーッス。……あ、サーシイ! キッチンはどう?」
と、オタクさんが空気を読まず挨拶してきた。
私、パァア……と顔が明るくなる。
「オタクさん、おはようございます! すごいです、すごい使いやすい! 夜の間に直してくれてありがとう!」
オタクさんも顔を明るくした。
「そっかー! よかったよ! 突貫でやったから高さ調整しかしてないんだけど、ゆくゆくは上の段の棚も自動で下りてくるように作り替えるし、火の魔導具はサーシイの希望通りに改良するから! 他には改良点ある?」
「あ、じゃあ、蛇口……じゃなくて、水の魔導具の、水の出る部分なんですけど、これをシャワーに切り替えられるようにしてほしいです! で、シャワーはちょっとだけ勢いよく出てほしい!」
「それ、スッゲーアイデア! 明日の朝には作っとくよ」
キャッキャッと盛り上がる私たち。
「おい! そもそもコイツが食料を勝手に食ったんだぞ!」
と、地雷さんがまた地雷を踏んでいる。
「だって、夜中まで作り直してたんだぜ?」
「それはしょうがないですね!」
判定、無罪!
パーラとプールも、渋々うなずく。
「ご主人様のために夜更けまで働いていたなら、ご褒美がほしいのはわかります」
「なーん……」
オタクさん、ふたりを見た後地雷さんを見た。何かを察知したらしい。
「ブライこそ、さんざん文句言ってたのに食ったのはなんでだよ?」
と、オタクさんが逆襲した。
「「グルルルル……」」
パーラとプールが地雷さんに向けて唸っている。
パーラとプールも、夜更けまで働いていたのでご褒美がほしかったのか……。
女装さんは慌てたように早口で私に尋ねた。
「そうそう。サーシイちゃん、寝る服はともかく、ちゃんとしたお洋服は採寸したほうがいいわ。あとでお部屋に来てくれる?」
「わかりました!」
ようやく普通の服が手に入るぞ!
オタクさんが私の食べ終えようとしている皿を見て、
「あ、いいなあ。俺にも作ってくんない?」
と頼んできた。
「喜んで!」
オタクさんには恩しかない!
愕然とする地雷さんと女装さん。
そして同時にパーラとプールを見るが、パーラとプールは反対しない。
もしかして、オタクさんを下僕認定したんだろうか? 違うからね?
女装さんが怖ず怖ずと尋ねてきた。
「……サ、サーシイちゃん。私のは……」
私がパーラとプールを見ると、渋々ながらうなずいた。
「ご主人様の衣装係ですから、しょうがないですね」
「なーん……」
「衣装係じゃないよ。服を作ってくれるんだよ」
やめて、どこぞの王侯貴族じゃないんだから。
「許可が出たのでいいですよー」
と、厨房へ向かった。
後ろで女装さんが、
「……アンタ、いいかげんその口と性格を直さないと、取り返しのつかないことになるわよ?」
と、説教していた。
スミスさんがドリンクを買って戻ってきた。
「スマン。この町のパン屋は昼しか開かないんだ。なんとかドリンクだけ手に入った」
って出してきた。
ありがたくいただく。
「んー……。スミスさんにも恩があるので、朝食を作りますよ」
「……いいのか? もう手に入らない粉なんだろ?」
スミスさんがそう尋ねると、女装さんが驚く。
「そうなの!?」
「記憶喪失前の私が調合した粉らしいんです。記憶がないので作り方がわからないから、もう手に入らないんです」
「なんか、錬金術師だったみたいだぜ? 料理専門の」
「ソレ、錬金術の無駄遣い……ではないわね。むしろ妥当な使い方だわ。昨日の料理、食べたことがないくらいおいしかったもの」
女装さんが意見を翻した。
パンケーキを焼いて出すと、三人が喜んだ。
「お酒を飲んだって言ってたから、お酒を飲んだ翌日に飲む感じの味付けのスープを作っちゃった。みんなお酒が残ってないんですね」
って言ったら全員が顔を見合わせて苦笑する。
「残らないように飲むんだよ」
「昨日は飲みすぎたってほうだけど、酒を飲んだから寝過ごしたんじゃなくて、寝るのが遅かったってだけ」
「翌日まで残るような飲み方をする大人は、みっともないのよ?」
と、口々に言う。
パンケーキを受け取ったスミスさんがチラリと地雷さんを見る。
「で? アイツは何を言った?」
やはりパンケーキを受け取った女装さんが困った顔でため息をつく。
「ここを片づけてくれたの、サーシイちゃんでしょう? それと……サーシイちゃんの作っておいた料理を食べ尽くしちゃったから、使い魔ちゃんたちが怒っちゃって」
「あー……。俺も怒られた。で、パンを買いに行かされた」
そういうふうに言うと、パシリにしたみたいだね。
「なのにソーンったら『そんなことで怒鳴ってるのか?』って言っちゃったもんだから、使い魔ちゃんたちが襲いかからんばかりに怒っちゃったのよ」
スミスさんが片手で額を覆い、天を仰いだ。
「ええ……。ブライって俺のことバカにしてるけど、自分こそバカじゃねーの?」
と、事情を知ったオタクさんも切り捨てたよ。
女装さんが続ける。
「で、使い魔ちゃんたちは、サーシイちゃんにソーンの食事を作ることを禁じたの」
スミスさんが顔を上げた。
「おい、ソーン」
「わかってます! 俺が悪いです!」
「罰として、今後この食堂の掃除はお前がしろ」
「……わかりました」
反省しているのかしょぼくれているだけなのかわからないけど、落ち込んでいる地雷さんは外へ出ていった。
スミスさんは頭をかくと、再度私に謝る。
「ソーンがスマン」
「私じゃなくて、パーラとプールに言ってください。パーラとプール、食べるのを楽しみにしてたから」
「マジでゴメン! なんか欲しい物があったら買ってやるから許してくれ!」
「ごめんなさい! 私も買ってあげるから!」
「え、俺はいいよね? 俺、サーシイのために夜中まで働いて小腹が空いたんだし」
「はい、オタクさんは無罪です!」
私が言い切った。




