第10話
〈サーシイが屋根裏部屋に引き上げてから〉
「で? あの子、どうしたの?」
ジョシー・ルージュがジョン・スミスに問いただす。
「マジで拾っただけ。心細げな顔をしてフラフラと一人で歩いてて『石頭』に騙されそうになってたから俺が拾った。なんか、料理ができるっぽいことも言ってたし」
「記憶喪失は?」
「そこを疑ってもな……。ワケありなのはわかるが、幼女のワケありってなんだ? どこかから逃げてきたってふうでもねーし、あの使い魔との会話を聞いても、記憶がないってのは本当ッぽいんだよ」
どこかで迷子になったのかもしれないが、使い魔がいるからそれも考えにくい。
だが……そもそも使い魔はサーシイの過去を知っているはずだ。それを語らないのはなぜか?
両親のもとに戻さなくていいと考えているか、あるいは戻る場所がないからか。
もし、両親が襲われサーシイはどうにかして安全に逃げたがショックで記憶喪失になり、使い魔も戻れないし思い出さないほうがいいと判断してそのままこの町まで歩かせた、という推理が妥当なのだが……。
「身なりがいいのよね……」
ジョシー・ルージュが呟く。
犯罪に巻き込まれたにしては、サーシイの出で立ちは身綺麗すぎた。
「金持ちなのは間違いないな」
呟きを受けてジョン・スミスが相づちを打つ。
ダンジョンでしか手に入らない魔法鞄を持っていた。ポシェット型なのであまり入らないはずだが、いろいろ出していたのでかなりの性能だろう。
おまけに重量軽減までついているとなると、あの魔法鞄を売っただけでそれこそ生活には困らなかっただろう。
そのことに、サーシイ本人も使い魔もまるで気づいていない。
本来ならどこぞの貴族令嬢かと考えるのだが、サーシイはコッテコテの魔術師ファッションをしている。ご令嬢ではないとアピールするかのようだ。
「念のため探るわよ?」
「それはかまわねーよ。ただ……泣かすな。本人にも聞くな。もし思い出したくない記憶で記憶を失ったのなら、そのままでいさせてやりたい」
ジョシー・ルージュがため息をついた。
「……わかった」
ジョン・スミスが苦笑する。
「甘いって考えてるんだろう? ……でも俺は、情を捨てるような生き方はもうしたくないんでね」
「そうね。私もそう。特に小さい子は泣かせたくないわね」
ジョシー・ルージュも苦笑した。
それを、少しだけ離れたところで他のメンバーが聞いている。
ソーン・ブライはばつが悪そうに足を組み替えていた。
マーロウ・カヴァジーが、ソーン・ブライを見て冷やかす。
「最初いなかったから知らないけど、だいたい予想がつく。リーダーには食ってかかってあの子にはキツいこと言ったんだろ」
「……当たり前だろ? いきなり拾ってくるかよ?」
サルヴィア・ビジューも冷やかした。
「料理人を探すのは、うちらの永遠の課題だったでしょ? ならリーダーに感謝をすれこそ食ってかかることはなかったじゃない」
「幼児が作れるとは思わなかった!」
すぐさまソーン・ブライが言い返す。
「まず、結果を見てから判断しようね。……なんで仕事のときはちゃんとできるのに、ふだんはできないんだい?」
「……よけいなお世話だ」
ふてくされると、横からセオ・ヒムテリーが口を挟んだ。
「リーダーに、本気で怒られていたな」
「「マジで?」」
「仕方なくサーシイに謝ったら、『無理するなハゲるぞオジサン』と、返されたのだ」
二人が噴き出す。
「……ヤバい、すごい逸材がきた」
「リーダー、やっぱ凄腕だわ。人を見る目がありすぎ」
「ねーよ! ……もういい!」
ソーン・ブラムが憤って席を立ったとき。
「あー疲れた。ひとまずはこれで終わりっと。あとは火の魔導具の改良だけど、ちょっと時間がかかるかなー。今日はこれでいいか。……じゃ、夜食を食べようっと」
とフェルム・オルトークがぼやいた。
その言葉を全員が聞きとがめる。
「「「「「夜食?」」」」」
「なんか作ってたから、ちょっともらおうって思って」
ジョン・スミスが止める。
「なんか作ってたのは確かだけど、作って置いておくっつってたぞ」
「作って置いておくんなら、食べてもいいってことでしょ?」
「「「「「…………」」」」」
「ちょっとならいいか」
「そうよ、ちょっとならいいでしょ」
「たくさん作ってたみたいだし、ちょっともらいましょう」
「うん、ちょっとだけね」
全員が『ちょっと』と言いつつ、酒盛りを始めた。
そんなことは露知らず、サーシイはスヤスヤと眠り、パーラとプールは夜の散歩に出かけていた……。




