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母を早くに亡くしていた私には、頼れる親戚は父の弟の久おじさんだけだった。南さんは、すぐに久おじさんに連絡してくれた。久おじさんは、その日の最終便の飛行機で、父と私、南さんがいる病院に来てくれた。
「花菜、大丈夫か?」
久おじさんは、息を切らせて病室に入ってきた。久おじさんの顔を見て、はじめて涙が溢れた。
「久おじさん⋯お父さんが⋯ヒクッ」
「⋯びっくりしたな、辛かったな、頑張ったな⋯」
「これからの事は心配しなくてもいい、うちに来なさい」
久おじさんは、安心させるように優しく私を抱き寄せた。
父の葬儀が終わり、中学卒業と共に、慣れ親しんだ田舎を離れ、久おじさんの家でお世話になることになった。
「花菜ちゃん、元気でね」
「無理すんなよ」
「いつでも帰っておいで、まってるから」
南さんやサエばあちゃん、近所のおじいちゃんやおばあちゃんたちが、口々に声をかけてくれる。
「ありがとう、みんなも元気で⋯」
笑顔で皆に挨拶をする。父がいなくなってから、私はうまく笑えてるだろうか。
村の駅から電車が離れる。見慣れた駅舎の桜は散ってしまっていた。
⋯今年の桜は見れなかったな⋯。
そんな事をぼんやり考えていた。
「花菜、ここが今日からお前の家だよ」
久おじさんに連れてこられたのは、本州の地方都市。うちの診療所兼住宅の何倍もあるような大きな家、というかお屋敷と言ったほうが正しいような。お屋敷の手前にある桜並木は、今が満開だった。子どもたちが数人、桜の木の側で遊んでいる。風が吹いて、桜の花びらが舞った。ふと振り返ると、1人の男の子と目が合った。
⋯近所の子かな、小学生?
軽く会釈をして、私はお屋敷の門をくぐった。




