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「花菜、お父さんだよ。学会が終わったから、今から家に帰るよ。高速で2時間くらいだから、夜8時位には帰り着くから」
2年前のあの日、寒波が九州にも届いていて、雪がちらついていた。いつものように携帯の留守電に父からのメッセージが入っていた。メッセージを聞いて、学校から自宅に帰る。自宅と診療所は併設だ。今日は、看護師の南さんが、ご近所さんの健康チェックを行うために、診療所は開いている。
「ただいまー」
いつもなら、診療所の扉を開けると、ご近所のおじいちゃんやおばあちゃんが、待合室のストーブを囲んで、笑顔で迎えてくれる。でも、その日は、診療所の奥から転びそうな勢いで、南さんが駆け出してきた。
「⋯花菜ちゃん、落ち着いて聞いて⋯。正先生、事故に遭ったって⋯」
南さんは、真っ青な顔で私に言った。
そこから先は、まるで映画でも観てるような、目の前に膜でも張られたような、非現実的な世界にいるようだった。
南さんに連れてきてもらった街の病院に父はいた。警察の人によると、車は高速道路の壁に衝突、車のブレーキの跡が無いから、父の居眠り運転が事故の原因だろうと言われた。父の身体には、所々擦り傷などあるが、声をかけたらいつもみたいに「おはよう」って言って起きてきそうな、そんな顔だった。
「⋯お父さん、起きてよ。」
ー父は、目を覚まさなかった。




