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久しぶりに懐かしいうどんを食べたからか、私は2年前を思い出した。
九州の小さな無医村、私は父と二人で住んでいて、そこで父は唯一の医者だった。
「正先生、うちで採れた野菜、ここに置いとくから食べな」
ご近所さんが、2人では食べきれないほど大量の野菜をカゴに詰めて持ってきた。
「いつもすまんね」
笑顔を絶やさない優しい父は、皆に好かれていた。
久おじさんは毎年夏に一度、うちに遊びに来ていた。いつも沢山のお土産を私たちに持ってきてくれて、とても優しい久おじさんが私は大好きだった。
久おじさんは、これまで1人で遊びに来ていたけど、その年の夏は、初めて尚久くんを連れて来た。尚久くんは、医学部浪人生で、勉強の気分転換のためにと、おじさんが初めて連れてきたのだ。いとこの尚久くんと会ったのはその時が初めてだった。恰幅の良い久おじさんとは正反対で背は高いがひょろりと痩せている。柔和な顔の久おじさんに似ず、神経質そうな表情。
「はじめまして、花菜ちゃん」
尚久くんの張り付いた笑顔と、じっと私を見るガラス玉のような無機質な目、握手をしたジトッとした汗ばむ手。その手を早く離したかったのを覚えている。
「あー、サエさん。今度の学会の時、家を留守にするから、そんときはまた花菜を頼むよ」
白菜を持ってきたご近所のサエばあちゃんに父が頼んだ。
「あー、ええよええよ」
サエさんは曲がった腰をくっと伸ばして笑顔で答えた。
「もう私一人でも大丈夫だよ、来年は高校生だよ」
頬をぷぅと膨らませ、父に抗議する。
「今度の学会はF市だ、今までよりも近いし車で往復するから、学会が終わったら直ぐに帰れるよ。帰ったらお父さん特製うどんを作ってやろう」
私の膨らませたほっぺを、父の大きな両手で挟み、グリグリとする。
「あーもう、いつまでも子ども扱いする」
私は父の手を軽く払い除けた。
「仲がいい親子だなあ〜」
サエばあちゃんが微笑ましく見つめる。




