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日が暮れて辺りが暗くなると、高校の校舎に定時制の学生が登校してくる。この高校には、全日制と定時制がある。俺たち定時制の学生は「夜学の人」なんて、昼間のフツーの高校生からは言われてるみたいだ。まあ、ツナギを着た金髪なんて、昼間の校舎には絶対居ないだろう。この間は、廊下ですれ違ったきれいめの女子高生に思いっきり睨まれたし、部活終わりで下校が遅くなったのか、野球のユニフォームを着た高校生が数人、俺と目を合わせないように廊下の隅を歩いている。俺は「こんばんは〜」と挨拶をしてみるが、高校生達は一様にビクッとして俺から早足で離れた。
「何をやっている?中村、お前はただでさえ大柄で金髪でピアスだらけで、その格好だ。若い子がビビるだろう」
横には小さいおじさん、もとい小柄な国語の井上先生が立っている。180cmを超えている俺は、井上先生を見下ろす。
「別にビビらせてはないです」
「若い子をビビらせるなよ」
井上先生はもう一度言って、教室の中に入っていった。
「⋯ビビらせるつもりはないんだけどな⋯」
俺は呟いた。
俺は母親と2人暮らしだった。シングルマザーの母親は、俺が子供の時から、俺を置いて数日家に帰らない事もあった。そんなだからか、俺は中学もそこそこで高校には行かなかった。勝手な母親は、そんな俺に仕事をさせるため、知り合いの知り合いである大工の棟梁の下に俺を連れて行った。それから、俺は大工の見習いとして働いていた。先輩達は厳しく、最初は怒られてばっかりで何にもできなかったけど、自分のやった仕事が形になっていくことは、得も言われぬ充実感になった。
「高校ぐらい行っとけ」
仕事をはじめて5年が過ぎた頃、棟梁から定時制高校のパンフレットを渡された。最初は乗り気では無かったが、現場のおっちゃんたちからもすすめられて、渋々入学した。
今までまともに勉強なんかやってこなかったけど、なんとか授業について行った。授業が終わり、黒板に書かれた文字を消して、いつものように窓を開けて黒板消しを叩いた。宙に舞ったチョークの粉を浴びないように気をつけるのも、もう少しの期間だ。
「小学校で習う漢字すらまともに書けなかった中村が卒業か⋯」
うんうんと頷きながら、井上先生が話す。
「俺もやってけるとは思わなかったっす」
俺も井上先生に同意する。
「周は一番ヤバかったもんなー」
「そうそう、かけ算も怪しかった」
「まあ、そんだけ頑張ったってこった」
上は70代から下は20歳の同級生たちが口々に話す。夜も更けた教室で、コーヒーを飲みながら、俺は皆の話を静かに聞いていた。




