11
朝、花菜が家を出たタイミングで、俺は曲がり角を曲がって、さも偶然のように花菜に会う。
「おはよう、たっくん。今日も早いね
」
「⋯おはよう、花菜」
いつもと同じ朝。いつもと同じ挨拶。
花菜は今日も綺麗だ。
「ここでは良いけど、せめて学校では先輩を付けてね」
年上らしい柔らかい言葉で、諭すように俺に言う。花菜は俺に対して弟のような接し方をする。初めて出会った2年前、俺は近所のガキそのものだった。花菜に出会ってから、花菜に釣り合うべく、猛勉強をし、嫌いな牛乳も嫌というほど飲んで、20cm以上背も伸びた。中学校では、割とモテていたと自負する。そろそろ、1人の男として見てくれても良いんじゃないだろうか?愛の告白でもしたら、少しは意識してくれるだろうか⋯。
「⋯か、か⋯」
「拓海、おはよー。花菜さん、おはようございます」
玲がいつもと同じように、俺たちに声をかけた。俺はガクリと項垂れた。
2階の自分の部屋から、私は毎朝、必ず確認する事がある。曲がり角の奥にたっくんが立っている。チラチラと腕時計を見ながら、私が家から出てくるのを待っている。私が家を出ると、曲がり角の向こうからたっくんがやって来る。
「⋯おはよう、花菜」
少し恥ずかしそうに私に挨拶する。
いつもと同じ光景に、私は安堵する。
⋯たっくんは私の事が好きだ。
それは私の中で確定要素だった。
その事が、私のいる寂しい世界を、束の間、明るく照らしてくれる。初めてたっくんと会ったときは、小学生かなと思うくらい小柄な、いかにもやんちゃな男の子というイメージだった。泥だらけになって遊んでいても、私と会うと顔を真っ赤にして話しかけてくれた。たっくんが、冷え切った私の心を温かくしてくれた。そんなたっくんも、今では私の身長を軽く追い越し、「男の人」になった。それでも、私にとってたっくんは弟みたいな大事な存在。恋なんて脆いものでそれを失うことが、今の私には恐怖でしかない。たっくんの気持ちに、私は気づかないよう蓋をした。




