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―私はどこで間違えたのだろう。
小学生の頃、初めて兄が我が家にやって来た。文武両道で誠実な実兄⋯。僕は、本当は妬ましかった。
父の親友の娘であったあかりは、うちの病院の跡取りと結婚する運命だったあかり。初めて見た時から、僕はあかりを愛していた。でも、あかりは、私ではなく兄を愛していた。
兄は病院を継がず、父は兄と絶縁した。病院を継ぐことになった私と、兄との結婚を夢見ていたあかり⋯。結納の場に私が現れた時の、あかりの隠す事が出来なかった絶望の表情⋯私は一生忘れる事は無いだろう。
あかりと結婚して数年、私達は子宝に恵まれた。幸せの絶頂のはずが、子どもの顔は、以前からあかりに執着していた男と瓜二つだった。
何も言わないあかり⋯何も問いたださない私⋯。
私は仕事を理由に、子育てを両親とあかりに全て任せた。
あの日、旅行に出掛けた両親が不慮の死を遂げた。その葬儀で、あかりの常軌を逸した狼狽と尚久の狂気じみた偏執的な変化に私は初めて気づいた。そこから、私は初めて家族と関わる努力をした。
尚久を連れて、兄のいる九州へ旅行。尚久は花菜をとても気に入った様子だった。兄がF市に学会に行くと兄からの電話。隣には珍しく尚久が居た。
兄の診療所の看護師から、兄が事故に遭ったとの連絡。急いで駆けつけようと、玄関へ向かうと、ちょうど帰宅した尚久と遭遇した。
「兄さんが事故に遭った!今からF市に向かう」
「⋯そうですか、気をつけて」
驚くことなく、淡々と話す尚久。その違和感を私は感じたはずなのに⋯。
到着した救急隊は、血まみれの凄惨な状況を警察に報告した。放心状態の尚久は抵抗することなく警察に連行され、一部始終を見ていたあかりは、いつも整えられている髪を振り乱し、半狂乱で叫び続けた。
手術室に運ばれた花菜は、予断を許さない状況らしい。私と周くんは手術室の前で、花菜が助かることだけを祈った。⋯それは永遠とも呼べる長い時間。
―朝日が昇り始めた頃、医師から花菜が一命を取り留めた事を告げられた。




