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「お前はうちの跡取りだ、もっとしっかりやらないか!」
ああ、いつもの怒声が聞こえる。
「お前は誰に似たんだ。久にもあかりにも似てないじゃないか!」
⋯うるさいな、黙ってくれ。
「申し訳ありません。お祖父様。もっと精進します」
病院長である祖父に叱責される日々。父は仕事で家をあけ、祖母や母は、祖父を恐れ庇おうとはしてくれなかった。
母と僕しか家に居なかったある日、
「良い家に住んでるな。さすが大病院の奥様だ」
「⋯家には来ないでと言ったじゃないですか!」
玄関から聞き覚えのない男の声と戸惑いを隠せない母の声が聞こえる。僕は恐る恐る覗いてみた。
「⋯!」
初めて見る男に、僕は全身に戦慄を覚えた。
聞くまでもない。
あれは、僕の実父だ!
母は男に幾ばくかの金を渡した様子だった。
「また来るな」
男は下品な笑みを浮かべ、機嫌よく帰って行った。母は安心したように、ホッと胸をなで下ろした。
「お母さん」
母はビクリとして、僕に振り向く。
「⋯どうしたの、尚久さん⋯」
母は声が上ずって、冷や汗が流れている。
「先程の方、今度うちの別荘に招待しませんか?」
「⋯何を言っているの?尚久さん」
母は困惑と恐怖の顔を浮かべる。僕は穏やかな口調で語った。
「お母さんと2人で、あの方をおもてなししましょう。そう、お母さんが車を運転して連れてきてください⋯そうですね、『良いお酒があるから』とでも誘えば、彼は喜んで付いて来るのではないでしょうか?」
母はこの日から、僕に逆らえなくなった。
「いやあ、良い別荘だなあ。金持ちは違うねえ。」
「これは美味い酒だ!」
「最近ちょっとやらかしてよ、金がいるんだよ。あかり、都合つけてくれよ」
男は、母に勧められた酒を飲みながら好き勝手に話す。機嫌よく酒を飲み進めていたが、次第に眠気に襲われ眠り込んでしまった。
「お母さん、お疲れ様でした」
男が眠り込んだのを確認し、僕は母に声をかけた。
「⋯尚久さん、これからどうするの?」
母の手は震えが止まらない。
「そうですね。このまま山にでも埋めましょう。もう少し奥に行けば誰も立ち入る事はありません。⋯余計なものは排除しなければ」




