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「久おじさん」
「おお、花菜。どうした?」
私は、尚久くんが不在の間に、おじさんの書斎を訪れた。この前の、尚久くんのフィアンセ発言の真意を確認したかった。
「尚久くんから、私たちが婚約するって聞いたんだけど」
恐る恐るおじさんに聞く。
「ああ、尚久が言ってたな。私も君たちが結婚して、うちの病院を一緒に継いでくれるのは大歓迎だ⋯これで兄さんにも恩返しができる」
久おじさんは嬉しそうに話す。
「恩返し?」
私は聞き返した。
「これは、誰にも言ったことがなかったんだが⋯」
久おじさんに、書斎のソファーに座るように促され、私はソファーに腰掛けた。おじさんは一息つくと話し始めた。
「私の父、君たちの祖父は厳格な人だった。母はNOも言えずに、ただ父に尽くしていた。父には、母と結婚する前から付き合っていた人がいた。母もそれを承知していた。その女性がある日亡くなって⋯兄は僕が小学生の時に、父に家に連れて来られて来たんだよ。」
父から生家の話はほとんど聞いたことが無かった。九州にいる時に、久おじさんが年1回遊びに来てはいたけど、そんなことは初耳だ。
「兄はとても優秀で、父の期待は大きかった。誰に対しても親切で、誰もがうちの病院は兄が継ぐと思っていた。私も最初は兄に反発した、そんな私にも兄は優しかった。兄は国立の医大で首席、私は何とか医大に合格し医者になれた。でも、兄はうちの病院を継がなかった。無医村の医師になった。父は憤慨して兄を勘当した。それで私は跡を継いだんだよ。兄は私に遠慮してたんだろう。元々は兄のものだったんだ。病院も⋯」
最後の言葉を、おじさんは濁した。「両親ももう亡くなっている。私は花菜に病院を託したい。兄への贖罪も込めて」
久おじさんの言葉は一語一語が、私をこの家に、尚久くんに縛り付けるかのように感じ、私は何も言えずにいた。




