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第8話:氷の貴公子の独白(ガイアス目線)


執務室に戻り、重厚な革張りの椅子に深く背を預ける。

静寂に包まれた室内で、俺は自分の左手薬指で鈍く光る『リンク・リング』を見つめた。


指輪を通じて伝わってくるのは、つい先ほどまで向かい合っていたカレンの、激しく乱れた鼓動の残響だ。


「……いいかい、よく聞いて。この指輪は嘘をつかない」


自分の口から出た言葉を反芻し、苦い吐息をつく。

あんな風に、余裕のない剥き出しの感情をぶつけるつもりはなかった。

だが、彼女が自分たちの関係を「演技」という言葉で片付けようとするたび、俺の理性が、いとも容易く焼き切れてしまうのだ。


そもそも、この「偽装恋人」という回りくどい茶番を仕掛けたのは俺だ。

お見合いを壊すため? そんなものはただの口実だ。

仕事中毒で、俺を「不愉快な宿敵」としか見ていない彼女を、合法的に隣に置き、誰にも邪魔されずに触れるためには、この歪な契約を結ぶしかなかった。


学生時代から、俺の視線の先にはいつも彼女がいた。

誰よりも真摯に魔法と向き合い、不可能を可能にするその横顔。

周囲が俺を「氷の貴公子」と持て囃す中、彼女だけが俺を対等なライバルとして、真っ直ぐな敵意と情熱を向けてくれた。

その瞳に、俺以外の男を映したくない。その一心で、俺は管理局で誰よりも早くのし上がった。


(……リンク・リングの感度を上げて正解だったな。彼女がこれほどまでに僕に動揺し、そして——あんなにも甘い不安に揺れているのが、手に取るように分かる)


指輪から流れ込んでくるカレンの魔力は、戸惑い、恐怖、そして……微かな、けれど確かな「恋情」で熱を帯びていた。

それを感じるたび、俺の中の凶暴な独占欲が首をもたげる。

今すぐ彼女の元へ戻り、これは演技ではないと、君以外の女に興味などないと、その唇を奪って分からせてやりたい。


「……僕の魔力が、共鳴する術式が、こんなにも熱く君を求めているのは——君はこれも、魔導回路の不具合だと思っているのか?」


あの時、彼女は言葉を失い、林檎のように頬を染めていた。

カレン、君はまだ知らないだろう。

この指輪が伝える熱さなど、俺が君に対して抱いている執着の、ほんの一角に過ぎないということを。


「逃げる準備なら今のうちにしておくといい。……もっとも、君がどこへ逃げようと、奈落の果てまで追いかけて捕まえるがね」


俺は静かに魔力を練り、指輪の共鳴を確かめる。

「契約終了」の日が来た時、彼女を自由にするつもりなんて、最初から一分も持ち合わせてはいないのだから。



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