第15話:溶け合う熱 甘い拘束の始まり
カレンの言葉が落ちた瞬間、世界から音が消えた。
背後から抱きついた手に、ガイアスの大きな手が重ねられる。彼はゆっくりと振り返ると、逃げ場を塞ぐようにカレンを壁際へと追い詰めた。
「……後悔すると言ったはずだ。一度捕まえたら、もう二度と離さないとも」
至近距離で見つめるガイアスの銀色の瞳は、もはや理性の壁が崩壊し、昏い熱情に濡れていた。
彼はカレンの顎を強い力で掬い上げると、逆らう隙も与えずに唇を重ねた。
「っ……ん、ぅ……」
それは、あの日見せた冷徹な貴公子とは程遠い、飢えた獣のような口づけだった。
何度も角度を変え、深く、貪るようにカレンの唇を食む。ハーブティーの残り香と、彼の纏う冷たい冬のような香りが混ざり合い、カレンの鼻腔を支配した。脳内は真っ白になり、力の入らない腕で必死に彼の首に縋り付く。
「……はぁ、カレン……っ」
一度唇が離れるが、それはさらなる渇望への序奏に過ぎなかった。ガイアスはカレンの細い腰を引き寄せ、互いの鼓動が重なるほど密着させる。薄い衣類越しに伝わる、暴力的なまでの彼の体温が、凍えていた心を一気に溶かしていく。
「……君が悪いんだ。僕から逃げるチャンスを、君は自分で捨てた。もう、綺麗事で済む段階は終わったんだよ」
ガイアスは耳元で低く、掠れた声で囁くと、そのままカレンの首筋に顔を埋めた。熱い吐息が肌を焼き、吸い付くような刺激が走る。首筋から耳裏、そして鎖骨へと、彼の執拗な愛撫が降りていく。
「あ……っ、ガイ、アス……まって……」
「待たない」
ガイアスの大きな手は、カレンの背中から項へと這い上がり、柔らかな髪を指に強く絡めて固定した。
物理的な拘束以上に、その視線が、指先の熱が、カレンを逃がさないと叫んでいる。
彼はカレンの白い鎖骨に、痛烈なほど深く吸い付き、そこに鮮やかな「刻印」を残した。痛みに似た快感に、カレンの指先がビクリと跳ねる。
再び奪われた唇は、先ほどよりもさらに深く、執拗だった。
絡み合う舌、混ざり合う吐息。口内を隅々まで侵略される感覚に、カレンは息をすることを忘れ、ただ彼の支配に身を委ねるしかなかった。彼の腕の中で溶かされ、一つに塗りつぶされていく充足感。それは、地下室で感じた絶望とは正反対の、甘美な地獄だった。
「……本当に、僕でいいんだな? 僕は、君を一生自由になんてさせないぞ」
確認するように囁く彼の瞳には、狂気的な執着と、まだ微かな臆病さが混濁していた。カレンは微かに潤んだ瞳で彼を見上げ、紅潮した顔で、彼のシャツの胸元を強く握りしめた。
「……いいの、ガイアスじゃなきゃ。……お願い、もう離さないで。あんたの魔力で、私をどこにも行けないように……縛りつけて……」
そのカレンの「誘惑」が、彼を繋ぎ止めていた最後の糸を完全に切った。
ガイアスの瞳がさらに暗く沈み、彼は抗う術のないカレンを軽々と横抱きにすると、そのまま寝室へと向かう。
「今夜は、一睡もさせない。……君の肌のすべてに、僕以外の誰にも上書きできないほどの刻印を刻んでやる」
甘く、そして逃げ場のない宣言。
ベッドに沈められたカレンの視界には、自分を覆い隠すように覆いかぶさる、熱に浮かされたガイアスの銀色の瞳だけがあった。
窓の外では月が雲に隠れ、部屋の中には、重なり合う二人の熱い吐息と、加速する鼓動、そして甘い衣擦れの音だけが、夜を深く染めていった。




