第13話:事件の残響
事件の収束後、王都は嵐のような喧騒に包まれていた。
リラの父である侯爵の汚職、そして国を揺るがす魔導師売買組織の解体。
魔法省はその対応に追われ、被害者の一人でありながら、事件解決の決定打となる解析を成し遂げたカレンもまた、心身の回復を待たずして連日の聞き取り調査に追われることとなった。
あの日、薄暗い地下室でガイアスに抱きしめられた熱い体温。耳元で囁かれた、独占欲に満ちた熱い言葉。それらは、忙殺される日々の中で、まるで遠い夢の中の出来事のように現実味を失いかけていた。
カレンの体調は、幸いにも順調に回復していた。沈黙の枷によって乱れた魔力回路も、魔法省の治癒師による手厚い加護によって安定を取り戻している。
しかし、ただ一つだけ、心にぽっかりと穴が開いたような感覚が消えない。
「……ガイアスに、会いたいな」
窓の外、王都の夜景を眺めながらカレンは小さく零した。
あの日以来、ガイアスとはまともに言葉を交わしていなかった。彼は組織の残党狩りと、リラたちの処遇を巡る法廷準備の総責任者として、カレン以上に多忙を極めている。
時折届くのは「無理をするな」「食事は摂っているか」といった、事務的で短い伝言魔法だけだった。
(あんなに強く抱きしめてくれたのに。あの言葉は、極限状態だったから出ただけのものだったのかしら……)
不安が胸をよぎる。カレンは左手の指輪を見つめた。あの夜、壊れんばかりに熱く脈動していた指輪は、今は凪いだ海のように静まり返っている。
一方、主犯格の一助となったリラ・アンバー侯爵令嬢の末路は悲惨なものだった。
名門であったグランツ家は即座に爵位を剥奪され、資産はすべて没収。リラ本人は、魔導師を売買するという人道に外れた罪に加え、国家公務員であるカレンへの拉致監禁・傷害罪が適用された。
美しい髪を切り落とされ、魔力封じの枷を嵌められたまま、一生光の差さない北方最果ての監獄へと送られたのだ。
ガイアスの慈悲なき追及により、彼女には再審の機会すら与えられなかった。
そんな折、一通の紙鳥(伝言用の魔道具)がカレンの元へ舞い降りた。
そこには、見慣れた流麗な筆跡でこう記されていた。
『今夜、君の家へ行く。少し、話をしよう』
それだけの短い言葉に、カレンの心臓は跳ね上がった。
急いで部屋を片付け、お湯を沸かし、ハーブティーの準備をする。
鏡の前で自分の顔色を確認し、少しだけ気合を入れて髪を整えた。
会えなかった数週間分の寂しさと、あの日聞かされた言葉の真意を確かめたいという期待。
夜の帳が下りる頃、カレンは期待と不安が入り混じった心地で、彼の訪れを待っていた。




