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第10話:断絶の罠と闇からの嘲笑


調査初日と二日目、私は宿屋の一室に籠もり、広域探索用魔道具『アリアドネ』を村全体に展開して残留魔力の解析に没頭した。

窓の外では、ガイアスたちが消失現場の聞き込みや、鬱蒼と茂る周辺の森の捜索に当たっている。彼と離れていても、左手の指輪を通じて伝わってくるのは、針のように鋭く張り詰めた警戒心。そして、時折ふわりと混じる、私への過保護なまでの心配だった。


「……おかしいわね。魔力の痕跡が、ある一点で完全に『断絶』している」



解析三日目の夜。

水晶体に映し出される魔力波形を睨みつけていた私は、ついに違和感の正体を突き止めた。

村の外れ、放棄された古い貯水池付近に、周囲の空間から切り離されたような不自然な「歪み」が存在している。


時刻は深夜。折悪しく、ガイアスは村の反対側で発生した小規模な騒ぎ——酒に酔った村人が暴れ出したという緊急報告——の鎮圧に向かった直後だった。

宿に残っているのは、私と護衛の部下一人だけ。


(今すぐこの歪みを解析すれば、消えた女性たちの居場所がわかるかもしれない。もし手遅れになったら……)


功名心などではなかった。ただ、一刻も早くこの不気味な事件を解決して、あの優しくも強引な男と一緒に王都へ帰りたかったのだ。

「少し、裏庭で魔道具の微調整をしてくるわ。すぐに戻るから」

私は護衛の部下に短く告げると、重いアリアドネを抱えて夜の静寂に包まれた宿の裏庭へと出た。


月明かりが青白く地面を照らす中、魔道具の水晶体が心臓の鼓動のように怪しく明滅する。

その時だった。


突如として、アリアドネがこれまで見たこともないような、どす黒い鮮血色の警告数値を叩き出した。


「——っ!?」


同時に、宿の周囲を包み込むようにして、重苦しくドロリとした「魔力封じの結界」が展開される。

大気が急速に粘り気を帯び、肺に鉛を流し込まれたような圧迫感に呼吸が止まる。

魔導師にとって、周囲のマナから遮断されるのは、暗い水底に沈められるのと同じ絶望だ。


「——っ、この魔力……人為的なものじゃ……!」


背後を振り向こうとした瞬間、私の足元の影がぐにゃりと不自然に歪んだ。影は意志を持つ粘液のような生き物となって這い上がり、私の手足を、身体を、蛇のように縛り上げる。


「……見つけた。ようやく一人になられましたわね、カレン・エルメット」


暗闇の帳を割って響いたのは、この辺境の村にいるはずのない、聞き慣れた高慢な声。


「リラ……様……っ!?」


驚愕に目を見開くが、影の触手が非情にも私の口を塞いだ。リラは暗がりから優雅に歩み寄り、扇子で私の頬を冷たく撫でた。その瞳に宿っているのは、これまでの嫉妬を超えた、純然たる狂気。


「精々、そこで震えていなさいな。貴女にはこれから、二度とガイアス様の顔が見られない場所へ行っていただきますから。ああ、安心なさい。殺しはしませんわ。……商品モノとしての価値が下がってしまいますもの」


リラが細い指を鳴らすと、影の拘束が一段と強まり、私の魔力枷となって意識を強制的に削り取っていく。


(ガイアス……!)


意識が闇に沈む直前、私は左手の指輪に、絞り出すような最後の魔力を込めた。

『助けて』

その切実な願いは、しかし無情にも展開された強固な結界の壁に跳ね返される。

指輪の共鳴は、ガイアスの元へ届く前に弱々しく震え、ぷつりと断絶した。


遠く、村の反対側で「囮」の騒ぎを鎮圧しているガイアス。

彼はまだ、自分の半身とも言える指輪の輝きが、最悪の形で失われたことに気づいていなかった。


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