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第5話:コライ族: 真実は暗い


数世紀前、〈闇の時代〉が始まる前に、人間には二つの種族が存在することが発見された。

ひとつは、生まれながらにして奇妙な力を持ち、その力は十歳を迎えた時に目覚める〈異能者〉。

もうひとつは、まったく普通の人間であり、他の人々と同じように暮らしていたが、その数の少なさから〈孤立者〉あるいは〈忌み子〉と呼ばれていた。


時の流れとともに、さまざまな系統の力が現れ、それらは十の氏族に分類された。


月の一族(最初にして最も偉大な一族)。

闇の一族。

血の一族。

蝶の一族。

植物の一族。

雪の一族。

火の一族。

水の一族。

風の一族。

岩の一族。


それぞれの氏族には強力な長が存在し、彼らは〈十人の族長〉として知られていた。

だが、その均衡は〈灰の子らの惨禍〉によって崩れ去った。

それは〈影時かげし〉――〈影の時代〉において布かれた〈追放の掟〉によるものであり、一部の氏族を滅ぼすことを目的としていた。


だが誰も知らなかった。

その掟は〈カゲモリ〉の仕業ではなく、さらに強大で深淵なる闇の力によって生み出されたものであったことを――。



---







---


放課後のチャイムが鳴り終わると、生徒たちはそれぞれの教室へと戻っていった。

――その中で、C-2クラスは不思議なほど静まり返っていた。

まるで奇跡のように、誰一人騒ぐことなく、担任のリリィの帰りを待っている。

……いや、正確には“ほとんど”の生徒が、だ。

各々が自分のことに集中する中、教室の一角にだけ異質な空気を放つグループがあった。三人の男子と二人の女子。

その中心にいるのは、背が低く、腹が出ており、やけに声の大きい男――まるでこの場の主であるかのように振る舞っている。

彼らは「誰かについて嘘をつくゲーム」と呼ばれる遊びに興じていた。

ルールは単純だ。

瓶が指し示した者が、誰か一人を選び、その人物について“嘘”を語る。

そして――

瓶の口は、その太った少年を指した。

“岩の一族”に属していると噂されるその男は、にやりと笑いながらゆっくりと視線を巡らせる。

二度、三度と首を動かし――やがて、その目が止まった。

窓辺で静かに外を眺めている、一人の少女。

「……俺は、シラガミを選ぶ」

指を差された少女――レン・シラガミは、その名を呼ばれるとゆっくりと振り向いた。

彼女の口元には、いつもの穏やかな笑み。だがそれは、どこか“作られたもの”のようにも見える。

「レン・シラガミ」

少年は彼女を指さしながら、まるで告発するかのように言葉を続けた。

「お前は優しくて、笑顔が本物で、しかもすごく綺麗だ」

――その瞬間、教室中が息を呑んだ。

レンが静かな人物であることは誰もが知っている。

だが、“優しい”などという評価が的外れであることも、同様に全員が理解していた。

当然だ。

彼女は決して“そんな存在”ではない。

だが――

当の本人は、まったく動じていなかった。

それどころか、どこか楽しんでいるようにさえ見える。

(退屈していたところに、いい玩具が現れた)

そんな思考が、その瞳の奥にかすかに揺れる。

やがて、皆の視線を一身に受けながら、レンは静かに立ち上がった。

そして、そのまま少年の机へと歩み寄り、向かいの席に腰を下ろす。

「面白い遊びね……ディンジ」

名を呼ばれたディンジは、ごくりと唾を飲み込んだ。

彼は、レンが黙って受け流すとでも思っていたのだろう。

あるいは、扱いやすい相手だとでも。

だが――その笑顔は、どうにも不気味だった。

「私も、混ぜてくれる?」

柔らかな声。

だが、その響きには温度がない。

優しさに見せかけた、何か別のもの。

オレンジ色の短髪の少女――ユウキが軽く頷いた。

「ええ、もちろん。ルールは簡単よ。誰かを選んで、嘘を言うだけ」

その説明を聞き終えるより早く――

レンは、迷いなく指を伸ばした。

真っ直ぐ、ディンジへ。

「ディンジを選ぶ」

一瞬の静寂。

だが当のディンジは、苛立ったように舌打ちし、肩をすくめた。

「はいはい、仕返しってわけか。どうぞ、“本物の笑顔のお嬢様”」

レンは気にした様子もなく微笑むと、両手に頬を乗せ――

そして、一気に言葉を紡いだ。

「ディンジ……あなたはとても細くて、完璧な体型をしている。腹筋も綺麗に割れているし、とてもハンサム。女の子たちはみんなあなたに恋して、陰で噂しているわ。まさに理想の男性ね。健康的で、運動も欠かさず、性格も優しくて礼儀正しい……」

一拍、置いて。

「――それに、少なくとも“一ヶ月放置したツナのような匂い”はしないわね」

言い切ると同時に、彼女はすっと立ち上がった。

そのまま何事もなかったかのように自分の席へ戻り、再び窓の外へと視線を向ける。

教室は、一瞬の沈黙の後――

爆発した。

「ぶっ――!!」 「はははははっ!!」

笑い声が止まらない。

床に転げ落ちる者、涙を拭う者。

ディンジの顔は真っ赤に染まり、今すぐ地面に埋まりたい衝動に駆られていた。

(なぜ、あの時――)

瓶が自分を指した瞬間。

振り向かなければ。

彼女を選ばなければ。

そんな後悔が、頭を駆け巡る。

だが、もう遅い。

自分が仕掛けたゲームで――自分が笑い者になったのだから。

ユウキですら、慰めようとして笑いを堪えきれなかった。

そして――

レンは、ゆっくりと瞬きを一つ。

ディンジの視線に気づくと、無垢な笑みを返した。

まるで、天使のように。

――レンは、勝つ必要などなかった。

ただ、

他人が“負ける”瞬間を楽しんでいただけ。

そしてディンジは、その中の一人に過ぎなかった。



---


ひとしきりの笑い声と、いつもの賑やかな雑談が教室を満たした後――

再び、教室の扉が静かに開いた。

リリィ教師が戻ってきたのだ。

その表情は、いつも通り厳格で無機質。

静かな視線で一人ひとりの生徒を見渡すと、教室は自然と静まり返った。

全員の注意が自分に向いたことを確認し、彼女はゆっくりと黒板の前に立つ。

「……全員の注意がこちらに向いたようね。では、本題に入りましょう」

そう言って、チョークを手に取り――

黒板に一つの単語を書き記した。

「コライ」

――その瞬間。

教室の空気が変わった。

小さく息を呑む者。

顔に恐怖を浮かべる者。

あるいは、何も感じていないかのように無表情を保つ者。

カミカもまた、その一人だった。

彼女はリリィの動きを冷静に観察しながら、その意識を“コライ”という言葉に集中させている。

コライ――それは、常に“敵”として語られる存在。

その話題は、本来、軽々しく口にするものではない。

まるで、外部に漏らしてはならない“禁忌”のように。

「コライとは、この世界の南部に生息する醜悪な存在であると知られている」

リリィは淡々と語り続ける。

「彼らは残忍で、極めて貪欲。形状も一定ではなく、頭が二つ以上ある個体も珍しくない」

チョークの音が、静かな教室に響く。

「また、コライにも我々と同様、“ヒエラルキー”が存在する。第一階層、第二階層、第三階層……」

一瞬、間を置き――

「だが、第四階層の存在は、未だ確認されていない」

教室に緊張が走る。

「さらに、コライには固有の“刻印”がある。ただし我々とは異なり、その位置は一定ではない。首、腹、太腿……身体のどこにでも現れる可能性がある」

そして、リリィは振り返る。

その瞳は冷たい。

「――そして、それは“誇り”ではなく、“弱点”である」

空気が凍りつく。

「将来、コライと対峙することになるでしょう。……いずれ慣れるわ。その時は――迷わず刻印を貫きなさい。確実に、殺せる」

説明が終わると同時に、いくつもの手が挙がった。

リリィはその中から一人を指名する。

白い長髪を半分結い上げ、毛先に淡い青を宿した少年――フブキ・コリヤマ。氷の一族に属する、美しく穏やかな青年だ。

「失礼します、リリィ先生。質問よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

「コライの“死”は、どのように確認すればいいのでしょうか?」

「良い質問ね、コリヤマ」

リリィは再び黒板に向き直り、いくつかの用語を書き加える。

「一般的に、コライは死亡すると肉体が崩壊し、血へと変質する」

別の生徒が手を挙げた。

「コライは人間を食べるんですか?」

リリィは即座に答えを書く。

「ええ。彼らには独自の食性がある――虫や生肉など。しかし、人間も例外ではない」

その時――

ためらいがちに、一つの手が挙がった。

ヒナだった。

「……リリィ先生、よろしいでしょうか」

「……何かしら、サクライ」

「いくつかの書物で読んだのですが……第三階層のコライは出現が稀で、外見も人間に近い、あるいはそれほど異形ではないと。……それには理由があるのですか?」

――その瞬間。

リリィの手が止まった。

教室の空気が張り詰める。

(その質問をするのね……)

彼女はゆっくりと振り返った。

そして――

一瞬だけ、カミカと視線が交差する。

鋭く、青い瞳。

昨夜、理事長室で交わされた言葉が脳裏をよぎる。

(……第三階層のコライ)

カミカの声が、記憶の奥で蘇る。

――“第三階層のコライは……元々モカの人間が、自ら望んで変異した存在だ”

教室中がざわめいた。

だが、その中で――一人だけ。

静かに微笑む少女がいた。

レンだ。

彼女は手を挙げる。

「……その根拠は?」

リリィはレンを見据え、眼鏡の位置を整えた。

「第三階層のコライを捕獲し、DNAを解析した結果――通常の人間、すなわち“モカ”と一致したのよ」

くすり、と笑う声。

マリが頬杖をつきながら口を開いた。

「結局、弱者が自分を差し出して道具になるだけってことね」

「……一理あるわ、スミス」

リリィは静かに頷く。

「けれど――モカという存在の“精神面”も無視できない。嫉妬、劣等感、自尊心の欠如……選ばれなかった自分を受け入れられない者たち」

教室の空気が、どこか重くなる。

「だからこそ、彼らは“力”を求める。……けれど、その力は彼らを救わない。ただ、使い潰すだけの道具にする」

再び、ヒナが手を挙げた。

「歴史書には、コライと一族の対立は“闇の時代”――最初の世代から続いているとありました。……その理由は?」

リリィの視線が、マリからヒナへと移る。

その瞳の奥には、わずかな痛みが宿っていた。

「一般的には……コライが一族の力――“カグラ”に嫉妬したとされている」

静かに、しかし確信を持たない口調で続ける。

「けれど、私は……それだけではないと思う」

教室が息を潜める。

「かつてのコライには、一族のような“統制された軍”はなかった。十の族長のような存在もね。……ただの寄せ集め――家族単位の群れだったとも言われている」

チョークを置く音が、小さく響く。

「中には、互いを喰らい合って生き延びていたという説もある」

そして、わずかに目を細める。

「……だが、彼らがなぜ一族を狙うようになったのか。その本当の理由は――未だに解明されていない」

ヒナがさらに口を開こうとした、その時――

キーンコーンカーンコーン。

授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。

リリィは軽く息をつき、教室を見渡す。

「最後に一つ。学園側からの通達よ」

その一言で、再び視線が集まる。

「明日から、二年生を対象とした“競技試験”が行われるわ。全クラス参加。内容は体力と判断力の訓練――カグラ習得前の基礎訓練と考えなさい」

ざわめきが広がる。

「開始は明日の朝。……各自、万全の状態で臨むこと」

それだけ告げると、リリィは教室を後にした。

残された教室は、すぐにざわめきに包まれる。

期待に胸を躍らせる者。

不安に顔を曇らせる者。

その中で――

ヒナは、ぎゅっと拳を握りしめていた。

(競技試験……? 明日……?)

胸の奥で、不安が静かに膨らんでいく。

――何かが、始まろうとしていた。



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