第28話:拘留
数世紀前、〈闇の時代〉が始まる前に、人間には二つの種族が存在することが発見された。
ひとつは、生まれながらにして奇妙な力を持ち、その力は十歳を迎えた時に目覚める〈異能者〉。
もうひとつは、まったく普通の人間であり、他の人々と同じように暮らしていたが、その数の少なさから〈孤立者〉あるいは〈忌み子〉と呼ばれていた。
時の流れとともに、さまざまな系統の力が現れ、それらは十の氏族に分類された。
月の一族(最初にして最も偉大な一族)。
闇の一族。
血の一族。
蝶の一族。
植物の一族。
雪の一族。
火の一族。
水の一族。
風の一族。
岩の一族。
それぞれの氏族には強力な長が存在し、彼らは〈十人の族長〉として知られていた。
だが、その均衡は〈灰の子らの惨禍〉によって崩れ去った。
それは〈影時〉――〈影の時代〉において布かれた〈追放の掟〉によるものであり、一部の氏族を滅ぼすことを目的としていた。
だが誰も知らなかった。
その掟は〈カゲモリ〉の仕業ではなく、さらに強大で深淵なる闇の力によって生み出されたものであったことを――。
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二日目の訓練は、初日のような惨状にはならなかった。
特に生徒たちは、あの悪夢のような筆記試験を乗り越えたばかりだったため、自然と意識は体力訓練へ向けられていた。
そしていつものように、厳格な教官は訓練の開始と同時に、生徒たちへグラウンドの周回を命じた。
今回は、マリーは何かに躓かないよう細心の注意を払っていた。
空気は重い。
昨日までの活気はすっかり消え失せ、生徒たちの顔色も決して良いとは言えなかった。
昨夜はほとんど眠れなかったのだろう。
そのせいで朝の目覚めも最悪だった。
一方その頃、カミカ・キラスも黙々と走り続けていた。
彼女の頭の中にあるのはただ一つ。
――写本を見つけること。
そして当然ながら、自分の任務を妨げるような人間とは関わらないことだった。
例えばマリー。
カミカにとってマリーは、チェスで言うところのポーンに過ぎない。
たとえ威圧的な雰囲気を持っていようと、怒りっぽい性格で周囲を怯えさせようと、カミカにとっては何の脅威にもならなかった。
あまりにも小さな存在だった。
「どうしてマリーを見ているんだい、カミカ?」
突然隣から聞こえた声に、カミカは内心で大きく驚いた。
いつの間にかハル・フェリアが隣を走っていたのだ。
しかも彼が理事長の息子であり、かなりのお喋りであることを知っていたため、カミカは返事をしなかった。
そのまま距離を取ろうとする。
しかしハルは諦めなかった。
むしろさらに近寄り、不満そうな声を上げる。
「なんで無視するんだよ。僕は仲良くしようとしてるだけなのに」
するとカミカは短く答えた。
その声は静かで、冷たく、どこか恐ろしかった。
「近づかないで」
(怖っ……)
ハルは思わずそう思った。
それでも負けじと口を開く。
「それって脅しかい?」
カミカはさらに距離を取った。
だが、再びハルが近づこうとした瞬間――
「うわっ!?」
背後から来た誰かにぶつかり、体勢を崩した。
反射的にハルは近くにいたカミカへ手を伸ばし、支えにしようとする。
だが、それは最悪の判断だった。
カミカもバランスを失い、そのまま前方を走っていたマリーへ激突する。
「きゃっ!?」
「ちょっ――!?」
二人はもつれ合うように地面へ転倒した。
そして――その瞬間。
最悪の人物に見られてしまった。
厳格な教官である。
教官は鋭く笛を鳴らしながら近づき、無情にも両手で大きなバツ印を作った。
それは拘束――つまり居残り処分を意味していた。
「はぁ!? 私のせいじゃないわよ! この子がぶつかってきたんだから!」
マリーはカミカを指差して叫んだ。
しかし教官は聞く耳を持たない。
むしろ彼女が反論するのを待っていたかのようだった。
まるでマリーが罰を受ける口実を探していたかのように。
◇ ◇ ◇
――居残り中。
それは誰も予想していなかった組み合わせだった。
マリーとカミカ。
二人は同じ教室で向かい合うように座らされていた。
重苦しい沈黙が空間を支配している。
教官から「喋ったら永遠に解放しない」と言われたため、マリーも不満を押し殺していた。
今の彼女は窓の外を眺めながら、足を組んで机に乗せている。
まるで不良グループのボスのようだった。
そんな沈黙を破ったのは意外にもカミカだった。
「私のせいじゃない。ハルのせい」
マリーは勢いよく振り向いた。
一瞬怒鳴りそうになる。
だが何とか堪え、苛立ちを隠しきれない声で言った。
「どっちが悪いとか興味ないわよ……。私は今、本来なら訓練を受けてるはずだったのに」
窓の外を指差す。
そして皮肉っぽく続けた。
「しかも無表情で笑いもしないゾンビみたいな転校生が突っ込んできて私を巻き込んだ挙げ句、『ああ、マリー。私のせいじゃない。ハルのせい』ですって?」
マリーは立ち上がるとカミカへ近づき、その制服の襟を掴んだ。
「なんでそんなに私が苦しむ姿を見て楽しそうなのよ!」
カミカは二度瞬きをした。
「楽しそう?」
理解できない、と言わんばかりだった。
マリーは舌打ちしながら手を離す。
「そうよ。復讐が成功して喜んでるみたいな感じ」
カミカは何も言わなかった。
だがその視線はマリーから逸れない。
まるで続きを促しているようだった。
それを見たマリーは眉をひそめる。
「なんで私、ロボットに説明してるみたいになってるのよ……」
カミカは静かに顔を背けた。
再び沈黙が訪れる。
だが今度はマリーの方から口を開いた。
「私はまだ諦めてないから」
カミカが振り向く。
マリーは真っ直ぐ彼女を見据えながら言った。
「私はあんたを倒す。そして――あんたより強くなる」
その言葉に対して、カミカは何も答えなかった。
答えるつもりもなかった。
誰かと仲良くなること。
誰かと語り合うこと。
誰かと競い合うこと。
そして友情を築くこと。
その全てを、カゲモリは禁じていた。
彼女の使命はただ一つ。
フェリア学園の情報を集めること。
写本を見つけ出すこと。
そして――フェリアを滅ぼすこと。
それが与えられた任務だった。
だから彼女は、それを遂行するだけだ。




