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第20話: 新しい料理教師


数世紀前、〈闇の時代〉が始まる前に、人間には二つの種族が存在することが発見された。

ひとつは、生まれながらにして奇妙な力を持ち、その力は十歳を迎えた時に目覚める〈異能者〉。

もうひとつは、まったく普通の人間であり、他の人々と同じように暮らしていたが、その数の少なさから〈孤立者〉あるいは〈忌み子〉と呼ばれていた。


時の流れとともに、さまざまな系統の力が現れ、それらは十の氏族に分類された。


月の一族(最初にして最も偉大な一族)。

闇の一族。

血の一族。

蝶の一族。

植物の一族。

雪の一族。

火の一族。

水の一族。

風の一族。

岩の一族。


それぞれの氏族には強力な長が存在し、彼らは〈十人の族長〉として知られていた。

だが、その均衡は〈灰の子らの惨禍〉によって崩れ去った。

それは〈影時かげし〉――〈影の時代〉において布かれた〈追放の掟〉によるものであり、一部の氏族を滅ぼすことを目的としていた。


だが誰も知らなかった。

その掟は〈カゲモリ〉の仕業ではなく、さらに強大で深淵なる闇の力によって生み出されたものであったことを――。



---





料理大会そのものはすでに終わっていた。


しかし、生徒たちの心はまだ晴れていなかった。


リリィは確信していた。彼らには、張り詰めた空気を吹き飛ばし、単調な日常を壊してくれる何かが必要だと。


特に二年生は重要な時期にいる。


この一年は、生徒たちの土台を築く大切な段階だった。


だからこそ、彼女はここへ招いたのだ。


新任教師――アイコを。


植物の一族出身であるアイコは、カグラの発展に貢献した著名な研究者の娘として知られていた。


そのため、契約評議会や政府内でも高い知名度を持っている。


教育資格を取得したのはつい最近だったが、料理教師として教壇に立つのは今回が初めてだった。


この学園において料理とは、単に卵を焼いて塩を振るだけのものではない。


それは一つの芸術であり学問でもある。


生徒たちは食材について学び、香辛料の原料となる植物や、食用植物、有毒植物を見分ける知識を身につける。


そして同時に、調理技術も磨いていくのだ。


リリィが教室へ入ると、室内は静寂に包まれた。


誰一人として口を開かない。


しばらくの沈黙の後、彼女は小さく息を吐いた。


「今日は新しい活動があります」


その瞬間。


クラス全体から疲れ切ったようなうめき声が漏れた。


中には机に額を打ち付ける者までいる。


だがリリィは動じなかった。


「学園側は、皆さんに少し休息を与えることを決めました」


その言葉に、生徒たちの耳がぴくりと動く。


「先日の大会で皆さんが経験したことを考慮し、私とモリヤマ先生、そして他の教師たちで話し合った結果――料理大会を開催することになりました」


一瞬の静寂。


そして次の瞬間。


生徒たちの顔が一斉に輝いた。


「やったぁぁぁぁ!」


「休みだぁぁぁ!」


「料理大会だぁぁ!」


「食べ物ぉぉぉぉ!!」


歓声が教室中に響き渡る。


その光景を見て、リリィの口元にほんのわずかな笑みが浮かんだ。


だが、それも一瞬。


彼女はすぐに扉へ向き直った。


そして無言で生徒たちに付いてくるよう促す。


生徒たちも素直に従った。


一行が向かったのは、料理部が使用している学園の調理室だった。


閉ざされた扉の前で立ち止まったリリィは、生徒たちを振り返る。


「今日は私とモリヤマ先生が担当している活動なので、B-2クラスの生徒たちとも合同になります。ですから、喧嘩や騒ぎは控えてくださいね」


そう言って扉に手を伸ばそうとした時だった。


彼女の視線が後方へ向く。


カミカ・キラス。


まるで獲物を狙う鷹のような目でこちらを見ていた。


続いてマリー・スミス。


彼女は腕を組み、不機嫌そうに黙っている。


やがて――


カチリ。


鍵が外れる音が響いた。


扉の向こうには、すでにB-2クラスの生徒たちが集まり談笑していた。


モリヤマはすぐに立ち上がり、リリィの隣へ移動する。


その間にもC-2の生徒たちは次々と席へ向かっていった。


クラスは違っていても、両者の間に敵意はない。


大会の後であっても、それは変わらなかった。


「ヒナ」


聞き慣れた声がヒナ・サクライの耳に届く。


振り返ると、そこには笑顔のサイカ・タチバナがいた。


「クラス合同の活動なんて信じられないよ。聞いた時すごく嬉しかったんだから!」


ヒナは小さく頷く。


返事をしようとしたその時だった。


――バンッ!!


勢いよく扉が開かれた。


まるで背後から後光でも差しているかのような演出と共に、一人の女性が姿を現す。


アイコだった。


灰色のくせ毛。


丸眼鏡。


そして鮮やかな緑色の瞳。


どこか不思議な雰囲気をまとっている。


「みなさ~ん、こんにちは~」


見た目だけなら二十代とは思えず、どこかおばあちゃんのようにも見える。


だが、その声は驚くほど女性らしかった。


彼女は様々な植物を積んだ台車を引きながら前へ出る。


その光景に、


ユキ・シライ、


フブキ・コリヤマ、


デンジ・ヤママト、


そしてB-2の生徒たちは一斉に肩を落とした。


楽しいイベントだと思っていたのに、結局は授業なのだ。


しかしアイコは気にせず続ける。


「皆さんも噂くらいは聞いていると思いますので、まずは自己紹介をしましょう。私は新任料理教師のアイコです」


するとリリィが一歩前へ出た。


「ご存じの通り、アイコ先生は植物学の専門家です。ですので、活動を始める前に簡単な講義をしていただくことになりました」


その言葉に、生徒たちの肩がさらに沈む。


顔には失望の色が浮かんでいた。


だが、ヒナだけは違った。


彼女の瞳はむしろ輝いていた。


台車の上に並べられた植物たちへ、強い興味を向けている。


その多くは本で読んだことがあった。


しかし、その中に一つだけ――


彼女の目を奪う植物があった。


極めて希少な植物。


雪の一族領に存在する高山の頂上でしか育たない。


発見率は五十パーセント未満。


その香りを吸い込むだけで、驚異的な治癒効果を発揮すると言われている。


さらに六百年に一度しか開花しない。


氷雪に覆われた山頂洞窟で成長するため、その姿はまるでガラス細工のように透き通っていた。


だからこそアイコは、それを大切にガラスドームの中で保管していたのである。

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