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第95話:人々の移動

 中央平野の誕生は、まるで長い冬の終わりを告げる春の訪れのように、大陸中の人々を動かし始めていた。

 辺境や山間の集落から、あるいは干ばつや戦乱に疲弊した南部の町から、人々は荷車や馬に家財を積み、家族や仲間と共にこの地を目指した。


 湖畔へ続く新しい道には、絶え間なく列が連なっている。粗末な旅装束の農夫たち、交易を狙う商人の隊列、羊や山羊の群れを連れた遊牧民。誰もがその目に、見たことのない光を宿していた。

 湖面が見えた瞬間、彼らは足を止め、しばしその広がりに見入る。ある者は祈りを捧げ、ある者は子供を抱き上げて「ここが新しい故郷だ」と告げた。


 この流入を可能にしたのは、中央平野の創出だけではない。

 主人公とアリシアは、湖を中心に放射状に延びる道を、天地創造の魔法で各国へと通した。とはいえ、それは単なる開放ではない。周縁を囲む高山はあえてそのまま残され、切り開かれた道は必要最低限、そして狭く険しい。

 そこはいつでも関所として封鎖できるよう計算され、外敵に備えるための自然の防壁として機能する構造になっていた。


 「この地は、必ず狙われる」

 オレは湖岸に立ちながら、遠く連なる高山の稜線に視線を送った。

 「水も、土地も、交通の要衝も揃っている。……だからこそ、守り方を間違えれば、一瞬で奪われる」

 アリシアは静かに頷き、その瞳には未来を見据える強い光が宿っていた。


 湖畔では、すでに小さな集落が形を取り始めていた。仮設の木造小屋、湖水を汲むための桟橋、遠くでは畑を耕す鍬の音が響く。初めは点でしかなかった営みが、やがて線になり、面へと広がっていく。

 夕暮れ時、湖面を渡る風が新しい住人たちの焚き火の煙を運ぶ。その匂いは、焦土の匂いではなく、パンと焼き魚、煮込みの香り。戦の後には似つかわしくない、しかしこれからの未来にふさわしい香りだった。

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