第96話:新たな住処
中央平野の湖畔は、日ごとに姿を変えていった。
最初は、旅の途中の野営地の延長のような、粗末なテントと焚き火だけだった。だが一週間も経たぬうちに、杭を打ち、木材を組み合わせた簡素な小屋が立ち並び始める。やがて、道沿いには交易を見越した商人たちの店が開き、布地や穀物、塩や薬草が並べられるようになった。
湖面の近くでは、早くも農地の開墾が始まっている。湖から引かれた水路は、アリシアとオレが魔法で整えたものだ。まるで血管のように平野を走り、乾いた土地に潤いを与える。小麦や豆の種が植えられ、わずかな芽が顔を出すのを見ると、人々は歓声を上げた。
「ここなら、冬を越せる」
誰かのそんな言葉が、波紋のように広がっていく。
集落の中心には、大きな共同広場が設けられた。市場として使えるように平らにならされ、中央には井戸が掘られている。井戸の周囲では子供たちが走り回り、桶を抱えた母親たちが水を汲む。笑い声と水の音が重なり、まるでここがずっと前からあったかのような錯覚を覚えるほどだった。
しかし、この新しい住処はまだ安定してはいない。防壁もなければ、近隣との協定も結ばれていない。
「これから先、この地は外の世界との関わり方を選ばねばならない」
オレは湖畔から集落を見下ろしながら呟いた。
アリシアは少し間を置き、静かに答える。
「だからこそ、今ここに住む人たちが、ただの移住者じゃなく“守り手”にならなければならない」
その言葉は、湖面に映る夕陽のようにゆっくりと胸に沈み、これからの方向性を示す灯火となった。
新たな住処は、単なる避難先ではない。ここは、これから大陸の在り方すら変える拠点となる場所なのだ。




