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第94話:新生の大地

 炎龍討伐と天地創造の行使から幾日かが過ぎ、一行は一旦、北方辺境部の拠点へ戻っていた。

 吹き荒れていた戦火は静まり、辺境の空気には、長く忘れられていた安堵と期待が混ざっていた。

 村人たちの口からは、かつて絶望を覆っていた沈黙ではなく、未来を語る声が漏れ始めていた。


 補給と休息を経て、オレたちは再び中央へと向かった。そこには、かつての中央高地——ヒマラヤのような峻険な山々と氷壁に閉ざされ、万年雪と溶岩が混ざり合う死地だった場所——があったはずだ。

 だが、目に飛び込んできたのは全く別の光景だった。


 山脈の中心部は、その形を完全に変えていた。鋭く天を突いていた峰々は、なだらかな大地に姿を変え、そこには澄んだ水をたたえる巨大な湖が広がっていた。湖面は空を映し込み、青と白の雲が揺らぎながら形を変える。広さは諏訪湖をはるかに凌ぎ、湖岸から湖岸までは馬で一日かけても回りきれぬほどだった。

 湖の周囲には新たに現れた肥沃な平野が延々と続き、雨上がりの陽光を受けて草花の芽が一斉に顔を出している。雪解け水や地下水脈が解放され、大小の川が湖へと注ぎ、また湖から流れ出す大河が、大陸を横断する新たな水脈となって遠くへと延びていた。


 湖畔に立つと、湿った土の匂いと、まだ冷たい風が頬を撫でた。ここが数日前まで、炎龍の咆哮と火山の熱に満ちていた場所であることなど、誰も信じられないだろう。

 アリシアはオレの隣に立ち、その景色を無言で見つめていた。あの天地創造の瞬間、彼女の全身から迸る光と、オレの魔力が重なり合い、轟音と共に大地を形作っていったあの感触が、まだ手のひらの奥に残っている。


 背後では、辺境から来た人々がこの光景を目にし、ざわめきと歓声をあげていた。

 「これほどの土地……水も豊富だ……」

 「作物もきっと育つ……村を作れる……」

 老若男女の声に、久しく忘れていた希望の響きが宿っている。


 湖面の向こうでは、雲が切れて虹がゆるやかに弧を描いていた。それは、かつて越えられぬ障壁だった中央高地が、今や大陸をつなぐ新たな中心となったことを、天が祝福しているかのようだった。

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