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第91話:静かな誓い

 夕陽がゆっくりと稜線の向こうへ沈み、辺境の空に淡い群青が広がり始めていた。戦場の焦げた匂いも、風に運ばれながら徐々に薄れていく。

 撤収の準備を終えた仲間たちが、ひとり、またひとりとオレとアリシアのもとへ集まってきた。イーサンは無言で背中の弓を下ろし、リオナは薬草袋を抱えたままほっとしたように肩を落とす。トマスとファルクは互いに軽く頷き合い、視線をオレに向けた。


 言葉はなかった。だが、そこには確かな意志があった。

 炎龍を倒し、中央高地の核心部を変えたとしても、この世界の課題は終わらない。全員がそのことを理解しているからこそ、無理に言葉を紡ぐ必要はなかった。


 その瞬間、視界の片隅に淡い表示が浮かんだ。


——《COCOON SYSTEM ALERT》

 【精神達成度:92%】【自己実現パラメータ:閾値付近】


 まるで機械的に現状を評価するような無機質な数値列が、オレの脳裏に投影される。心拍や魔力消費、行動意志指数までが同時に表示され、システムがこちらの状態を解析しているのが分かった。

 (……あと少しで“帰還条件”を満たす、というわけか)


 アリシアが一歩前に出て、オレの横に立つ。その横顔には、疲労の影を隠そうともしないが、それ以上に強い光が宿っている。

 ふと、彼女が視線をオレに向け、わずかに頷いた。——行きましょう。

 声には出さずとも、その瞳がそう告げていた。


 オレも頷き返す。すると、他の仲間たちも自然と頷き、円を描くように立ち位置を寄せ合った。灰色の大地の上で、互いの影が重なり合い、一つの形になる。


 静かに、しかし揺るぎない誓いが交わされた瞬間だった。

 風がそっと吹き抜け、表示はフェードアウトしていく。だが、あの数値が示す意味は、胸の奥にしっかりと残っていた。

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