第90話:未来への視線
新たに生まれた平原の中心で、オレは立ち尽くしていた。
風が高地を吹き抜け、雪と土の匂いを混ぜ合わせて頬を撫でる。かつてここは、炎龍が巣食う死の山域——近づく者すべてを拒む、冷たい絶望の象徴だった。
だが今、その姿は跡形もなく消え、地平線まで続く穏やかな大地が広がっている。
アリシアが隣に立ち、視線を同じ遠方へと向ける。
夕陽の橙色が彼女の銀髪を淡く染め、その表情には達成感と疲労、そして静かな高揚が入り混じっていた。
「……変わったわね、この景色」
彼女の声は囁きのように小さかったが、確かに胸の奥に響いた。
「変わったのは景色だけじゃない」
オレはそう答え、足元を見やる。踏みしめる雪の下には、やがて草が芽吹き、花が咲き、獣が駆けるだろう。
その光景を、数年後、数十年後の自分が見ることはないかもしれない。だが、今この瞬間に切り拓いた未来は、確かに存在している。
背後では仲間たちがそれぞれのやり方でこの大地を見渡していた。
イーサンは地形を記憶するように目を細め、リオナは指先で風の流れを感じ取り、トマスとファルクは互いに短く頷き合っていた。
その姿が、この先も自分が歩むべき道を教えてくれるように思えた。
「これから、どこへ向かう?」
アリシアの問いに、オレはしばし言葉を選んだ。
「……戻るさ。だが、戻るだけじゃない。この地をどう生かすか、それを考えるために」
彼女は短く笑みを見せ、そのまま黙って平原を見つめ続けた。
空はゆっくりと群青へと沈み、遠くで星が一つ、瞬き始めていた。
その輝きが、これから先の道を静かに指し示しているように感じられた。




