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第88話:天地創造

 アリシアの両腕がゆっくりと広がる。彼女の足元に、淡く輝く魔法陣が幾重にも重なり、雪原の白を染め抜くように広がっていく。

 主人公から注ぎ込まれる魔力は、途切れることなく彼女の中へと流れ込み、澱みひとつない奔流となって全身を巡っていた。


 中央の火山が、低く唸るように地鳴りを上げる。遠く連なる山脈までもが震え、その稜線に積もる雪が微細な粉塵となって空へと舞い上がった。

 空気が重く、粘つく。まるで世界そのものが、これから迎える変化を畏れて息を潜めたかのようだった。


 アリシアの声が、静かに、しかし確実に響く。

 「——天地創造」


 瞬間、光が爆ぜた。

 火山の周囲を覆っていた岩壁が、まるで古い皮膚を脱ぐように音を立てて崩れ落ち、溶けるように平らへと変貌していく。

 峻険な斜面はなだらかな丘へと形を変え、切り立った峰々の間を埋めるように平地が広がっていった。


 主人公はラグナのセンサー越しに、その変化を克明に見つめていた。地殻のうねりが視覚化され、膨大なエネルギーが形を変えて地形を塗り替えていく様が、まるで巨大な生物の呼吸のように感じられた。


 アリシアの額から汗が滴り、雪面に落ちた瞬間、白い蒸気がふっと立ちのぼる。

 「もう少し……支えて……」

 その声に、主人公はさらに魔力の流れを強めた。自身の中の魔力が急速に削られていく感覚がある。だが、不思議と恐れはなかった。


 やがて、火山を囲んでいた険しい山岳の核心部はすべて、広大な平原へと姿を変えていた。

 周縁部の高山はそのまま残り、中央だけがまるで神話の舞台のような壮麗な大地となって広がっている。


 アリシアは深く息を吐き、膝をつきそうになったが、主人公が素早く腕を伸ばし、その身体を支えた。

 その瞬間、二人は互いの息遣いを感じながら、変貌した世界を見渡した。


 ——ここから、何かが変わる。

 言葉にはしなかったが、その確信が二人の胸に同時に芽生えていた。

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