第86話:仲間たちの笑顔
白い吐息が凍りつくほどの高地の冷気の中、足音と共に聞き慣れた声が響いた。
「……おい、本当に生きてやがった!」
振り返ると、雪と灰にまみれた仲間たちがそこに立っていた。イーサンは弓を肩に掛け、信じられないというように目を丸くしている。その背後では、リオナが両手いっぱいに薬草袋を抱え、涙で潤んだ瞳を必死にこらえていた。トマスとファルクも、互いの肩を支え合いながら歩み寄ってくる。戦闘の疲労と寒気に震えながらも、その表情には確かな安堵と誇りが宿っていた。
炎龍との決戦から、どれほどの時間が経っただろうか。意識を失ったまま、ただ生き延びることだけに全力を費やした時間。あの灼熱の嵐の中で、全員が無事で再び顔を合わせられるなど、戦いの最中には想像すらできなかった。
アリシアが一歩前に出て、仲間たちの間に立つ。銀の髪が風に舞い、氷雪の反射光を受けて柔らかく光った。
「……全員、無事でよかった」
その言葉は短く、しかし誰よりも深い感情を伴っていた。
笑顔といっても、ただの軽いものではない。誰もが互いの無事を確かめ合い、そこに到達するまでに払った代償の重さを噛み締めている。
イーサンがぼそりと呟く。
「オレたち、本当に……やったんだな」
リオナが頷きながら、主人公の腕に触れる。その手はまだ冷たく震えていたが、握る力は確かだった。
だが、この場に立っている全員が理解していた。
——炎龍を倒しても、中央高地の険しさが変わるわけではない。
この先に進むためには、まだ大きな試練が待ち構えている。
笑顔は、その重みを承知したうえでのものだった。




