第85話:アリシアの眼差し
朝陽に照らされた大地を見つめるオレの横で、アリシアが静かに足を止めた。
視線を感じて振り向くと、彼女はただ黙ってこちらを見ていた。微笑でもなく、哀しみでもない——けれど、その瞳の奥に宿るものは、確かに温かく、強い光だった。
「……何だ」
思わず問いかけると、アリシアは一呼吸置いて答えた。
「あなたは、やっぱり変わらない。どれだけ傷ついても、立ち止まらない」
その声は、感嘆と安堵がないまぜになった響きを帯びていた。
炎龍の咆哮の中で、誰もが生き延びることだけを願った瞬間——彼女は、最後までこちらを見ていたのだ。
オレがラグナを纏い、炎の嵐を切り裂く瞬間を。命を削るように魔力を放ち、立ち向かった背中を。
「……あの時、本当は止めたかった」
アリシアは目を伏せる。
「でも、止められなかった。あなたが何を見て、何を守ろうとしていたのか……少しだけ、分かった気がするから」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
(守ろうとしていた……か)
この世界を構築した張本人としての責任感もあった。だが、それ以上に——目の前で生きる彼女や仲間たちの命を、ただ繋ぎたいという衝動があったのだ。
アリシアが再び視線を上げる。
その瞳は、以前よりも深く、揺るぎない色を宿していた。
「次は、私も一緒に戦います」
その宣言は、単なる意思表示ではなく、未来への契約のように響いた。
オレは短く息を吐き、わずかに口元を緩めた。
「……頼りにしてる」
彼女は頷き、再び歩みを進める。
その背中を追いながら、オレは思う。
——この先にどんな困難があろうとも、この眼差しがある限り、進む道を見失うことはないだろう。




