第83話:支えられる歩み
外に出た瞬間、冷たい風が肌を撫でた。炎龍の咆哮が消えた後の世界は、信じられないほど静まり返っている。
だが、その静寂の下には、焼け焦げた土の匂いと、崩れた岩の粉塵がまだ息づいていた。
足元に広がる灰色の地面は、かつて緑を宿していたのだろう。だが今は、踏みしめるたびに細かな灰が舞い上がり、靴の縁を汚していく。
歩くたび、戦いの爪痕をなぞるような感覚が胸を締めつけた。
「一歩ずつでいい」
アリシアの声が、耳元で柔らかく響く。
その肩がしっかりとオレの体を支え、重心の傾きに合わせて微妙に力を調整してくれている。まるで長年同じ戦場を歩んできた戦友のような、息の合った支え方だった。
遠くで、イーサンたちの姿が見えた。彼らもまた負傷しながらも互いを支え合い、灰の上を進んでいる。
その背中を目にした瞬間、胸の奥で何かが温かく灯った。戦場では孤独だったはずの自分が、今はこうして共に歩く仲間を持っている——その事実が、足を前に進める力になった。
道は険しい。瓦礫が道を塞ぎ、焼けた木々が斜めに倒れている。だが、そのたびにアリシアが先に足場を確かめ、オレを導く。
「……ありがとう」
そう呟くと、彼女は短く首を振った。
「礼なんて、まだ早いですよ。あなたには、これからも歩いてもらわないと」
灰に覆われた大地の向こう、薄い朝靄が立ち上る方向に、かすかに緑の影が見えた。
それは、荒廃の中に芽吹いた、小さな命の証だった。




