第81話:灰に沈む息
戦いが終わって、どれほどの時間が経ったのかは分からなかった。
炎龍の咆哮が止み、世界が静寂に包まれてから、ずっとこの灰色の空気の中に横たわっていた気がする。
風が、ゆっくりと幕の隙間から吹き込んでくる。その風は決して冷たくはないが、乾いていて、灰の粒をわずかに含んでいた。舞い込んだ灰が頬をかすかにかすめ、ひやりとした感覚を残す。焦げた岩肌の匂いと、溶けた金属の甘い匂いが混ざり合い、胸の奥をじわりと圧迫する。
ラグナの防護は、確かにオレの肉体を一切の傷から守った。だが、それは無限ではない。あの戦いの間、膨大な魔力を注ぎ込み続けた代償が、今こうして全身に重くのしかかっている。体の芯は、鉛を詰め込まれたかのように動かない。指先ひとつ動かすだけでも、筋肉が強張り、肺が浅く悲鳴をあげる。
魔力の底をつき、呼吸一つにも集中を必要とする今の状態——それでも生きている。
それは確かに勝利の証であり、ラグナという存在がもたらした奇跡だった。
耳を澄ませると、近くで鍋が煮える小さな音が聞こえる。木の匙が鍋底をかき混ぜる規則正しい音と、薬草の苦みを含んだ匂いが鼻をくすぐった。その合間に、誰かの規則正しい呼吸音が混じる。アリシアだ。気配が、傍らでじっとこちらを見守っていることを教えてくれる。
その存在を感じるだけで、胸の奥にかすかな熱が戻ってくる。
——まだ、終わりじゃない。
戦いは一つ終わった。だが、物語も、オレ自身の行き先も、まだ道半ばだ。ここで横になっているだけでは、何も変わらない。
それはこの世界を形作ったゲームプランナーとしての冷静な理屈でもあり、今この世界を生きる者としての本能でもあった。
重い瞼を押し上げる。薄明の光が天幕の隙間から差し込み、地面に淡い筋を描いている。その光は柔らかくもあり、戦いの記憶を呼び起こす鋭さも含んでいた。
オレはゆっくりと視線を外へ向け、灰の舞う空の先に、自分が進むべき道を探す。
——立ち上がらなければ。
まだ震えるその心に、静かだが確かな熱が芽生えた。




