表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/135

第81話:灰に沈む息

 戦いが終わって、どれほどの時間が経ったのかは分からなかった。

 炎龍の咆哮が止み、世界が静寂に包まれてから、ずっとこの灰色の空気の中に横たわっていた気がする。


 風が、ゆっくりと幕の隙間から吹き込んでくる。その風は決して冷たくはないが、乾いていて、灰の粒をわずかに含んでいた。舞い込んだ灰が頬をかすかにかすめ、ひやりとした感覚を残す。焦げた岩肌の匂いと、溶けた金属の甘い匂いが混ざり合い、胸の奥をじわりと圧迫する。


 ラグナの防護は、確かにオレの肉体を一切の傷から守った。だが、それは無限ではない。あの戦いの間、膨大な魔力を注ぎ込み続けた代償が、今こうして全身に重くのしかかっている。体の芯は、鉛を詰め込まれたかのように動かない。指先ひとつ動かすだけでも、筋肉が強張り、肺が浅く悲鳴をあげる。


 魔力の底をつき、呼吸一つにも集中を必要とする今の状態——それでも生きている。

 それは確かに勝利の証であり、ラグナという存在がもたらした奇跡だった。


 耳を澄ませると、近くで鍋が煮える小さな音が聞こえる。木の匙が鍋底をかき混ぜる規則正しい音と、薬草の苦みを含んだ匂いが鼻をくすぐった。その合間に、誰かの規則正しい呼吸音が混じる。アリシアだ。気配が、傍らでじっとこちらを見守っていることを教えてくれる。


 その存在を感じるだけで、胸の奥にかすかな熱が戻ってくる。

 ——まだ、終わりじゃない。


 戦いは一つ終わった。だが、物語も、オレ自身の行き先も、まだ道半ばだ。ここで横になっているだけでは、何も変わらない。

 それはこの世界を形作ったゲームプランナーとしての冷静な理屈でもあり、今この世界を生きる者としての本能でもあった。


 重い瞼を押し上げる。薄明の光が天幕の隙間から差し込み、地面に淡い筋を描いている。その光は柔らかくもあり、戦いの記憶を呼び起こす鋭さも含んでいた。

 オレはゆっくりと視線を外へ向け、灰の舞う空の先に、自分が進むべき道を探す。


 ——立ち上がらなければ。

 まだ震えるその心に、静かだが確かな熱が芽生えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ