第79話:痛みと安堵
体を少しでも動かそうとした瞬間、鈍い痛みが全身を駆け抜けた。
骨が軋むような感覚。筋肉は重く、血管の奥でまだ戦闘の熱が燻っている。
炎龍との死闘の記憶が、肉体に焼き付いたまま残っているのだ。
ラグナの防護は確かに絶対だった。
魔力を絶え間なく供給する限り、炎も爪も牙も、その装甲を貫くことはできなかった。
だが、魔力は尽きる。
あのとき——最後の一撃を放った瞬間、防護結界は限界に達し、光の輝きが薄れていくのを感じていた。
もし、あの一呼吸が遅れていたら……この痛みすら味わうことはなかっただろう。
「……動かないほうがいい」
低く落ち着いた声が耳に届く。
視線を向けると、焚き火の向こうにイーサンが座り込み、こちらを真剣に見つめていた。
その横でリオナが包帯と薬草を手に、何度も頷いている。
彼女の手は微かに震えていた。戦いの緊張がまだ解けていない証拠だ。
「生きて帰ってきてくれて、本当に……よかった」
その一言に、オレは返す言葉を失った。
勝ったことより、生き残ったことに、彼らは安堵している。
ゲームのプランナーとして、シナリオを操る側でいたはずの自分が、今や彼らの安否に左右される存在になっている——その事実が胸の奥で重く響いた。
遠くで、夜明けの光が少しずつ強さを増していく。
焼け焦げた大地も、割れた岩肌も、淡い橙色に照らされ、別の表情を見せ始めていた。
その景色を見ながら、オレは浅く息を吐いた。
痛みは確かにそこにある。だが、それと同じだけ、安堵も確かにあった。




