第76話:勝利の代償
炎龍の巨体が、地響きを立てて崩れ落ちる。
熱を帯びた風が渦を巻き、焦げた大地の匂いが鼻腔を刺した。
ラグナの防護膜はすでに消え、魔力回路の冷却音だけが耳元で微かに響いている。
(……終わった、はずだ)
だが、その安堵と同時に、膝から力が抜けた。
全身を走り抜けた魔力の反動は、肉体と精神を容赦なく削っていく。
視界の端に、炎龍の魔力中枢が爆裂した痕跡——蒼白い残光が揺らめいていた。
足元に黒い影が差す。
イーサンたちが駆け寄るのが見えたが、その声は水の底から聞こえるように遠い。
「煌也!」
名を呼ばれ、返事をしようとするが、喉から音が出ない。
(ラグナ……防護は完璧だった。傷ひとつ……)
そう思った瞬間、胸の奥で鈍い痛みが走る。
魔力を限界まで引き換えにした結果、身体の内側——生命力そのものが削られている感覚があった。
アリシアの姿が視界に入った。
彼女は駆け寄るや否や膝をつき、額の汗を拭いながらオレの瞳を覗き込む。
「……あなた、まだ意識を保って」
必死な声と、その奥にある震え。
オレは薄く笑おうとした。
「勝ったんだ……それで……いい」
「いいわけない!」
アリシアの声が震え、握った手が熱を帯びる。
遠ざかる意識の中、オレはかすかに頷いた。
炎龍は討たれた——だが、その代償として、自分の中の何かが確実に削り取られたことを理解していた。
(……これが、現実の死と隣り合わせの勝利か)
薄闇の中で、意識が音もなく沈んでいった。




