第74話:最後の策
炎龍は傷つきながらも、その巨体から放たれる威圧は衰えを見せなかった。
黒煙と炎が入り交じる空間で、その瞳だけが鋼のような光を放っている。
ラグナのHUDが、無慈悲に魔力残量の減少を告げ続ける。
防護膜はすでに半減し、次の直撃を受ければ魔力供給が追いつかなくなる。
このままでは消耗戦に引きずり込まれ、確実に敗北する——そう悟るのに時間はかからなかった。
(……なら、最後に賭けるしかない)
オレは深く息を吸い、ラグナの魔力回路を全開放モードに切り替える。
防護と攻撃のバランスを切り捨て、すべてを渾身の一撃に注ぎ込むための危険な設定だ。
HUDに「警告:限界運転」の赤い文字が点滅する。
頭の中で、過去の記憶が一瞬だけよぎった。
机上のゲームデザイン画面に並んだ炎龍のデータ。
自分で設定した、最大の弱点——胸骨下部のわずかな魔力中枢。
しかしそれは、本来なら協力プレイでしか狙えない位置。
たったひとりで、しかも生身で近づくなど、無謀の極みだ。
だが、ラグナがある。
魔力をすべて注ぎ込めば、一瞬だけ、その領域に踏み込む力を得られる。
(これで終わらせる)
オレは足元を蹴り、炎龍の死角を目指して一気に駆けた。
地面の熱がブーツ越しに伝わり、息をするたびに喉が焼けるようだったが、視界は一点しか捉えていない。
——あの胸の奥の輝き。
炎龍がこちらに気づき、口を開いた瞬間、ラグナの推進機構が炸裂的な加速を生み出す。
世界が引き延ばされたように遅くなり、炎の奔流をかすめる。
次の瞬間、オレはその巨体の懐へと飛び込んでいた。




