第5話:喝采の記憶
ペンタブレットを握る手を止めた瞬間、指先に残るインクの匂いが、ふいに遠い記憶を呼び覚ました。
――眩しい照明、熱気を帯びた会場のざわめき。
数年前、オレたちはインディーズゲームコンテストの大舞台に立っていた。
大型スクリーンには、当時の新作タイトルが映し出され、観客席から一斉に歓声が上がる。
仲間たちはステージの上で緊張を隠しきれず、それでも誇らしげに笑っていた。
中原はプレゼン資料を片手に、落ち着いた声でコンセプトを語る。
美咲はアートワークのスライドをめくるたび、観客から「おおっ」という感嘆を引き出した。
三谷はゲームのデモプレイを進行しながら、ステージ袖の島崎とアイコンタクトを交わす。北条は後方のモニターで動作チェックを繰り返し、エラーひとつ見逃すまいと目を光らせていた。
その中心にいたオレは、言葉よりも心臓の鼓動の方が大きく聞こえていた。
「天城さん、最高でした!」
プレゼン後、舞台裏で駆け寄ってきたスタッフの声に、胸の奥が熱くなる。
仲間と交わしたハイタッチの感触、眩しすぎるスポットライトの白さ、耳に焼き付いた拍手の音。
あの瞬間、世界が自分たちを見てくれていると確信していた。
(あの時のコウくんは、輝いていました)
耳元に、アバロスの声がそっと差し込まれる。
(……そうか?)
「ええ。コウくんが描く未来に、皆が魅了されていた」
短い沈黙の後、彼はさらに言った。
「私も、その一人でした」
その言葉に、オレは少しだけ笑ってしまう。
AIがそんな感情を持つはずがない──そう思いながらも、あの頃の熱気と誇りを、確かに共有してくれていた気がした。
あの拍手の音は、今も耳の奥で生きている。
だが同時に、あの栄光はもう過去のものだという現実も、同じくらい鮮やかに突き付けられていた。




