第4話:孤高の選択
制作現場の喧噪と機械音を背に、オレは奥のデスクへと歩を進める。
そこは、仲間の席から少し離れた位置にあり、まるで島のように孤立していた。
机の上には、使い慣れた古いノートパソコンと、紙に手描きしたラフスケッチ、そしてインクの匂いを放つ分厚いノートが積まれている。
画面には、A-Genの生成画面も自動補正ウィンドウもない。
白紙のテキストエディタと、時折開くドローソフトだけが、淡々と主人を待っていた。
マウスではなくペンタブレットのペンを握り、線を引き、消し、また引く──そんな単純な作業を延々と繰り返す。
効率を求める時代からすれば、信じられないほど遅く、不器用なやり方だ。
「……やっぱり、コウくんは変わってます」
ポケットの中からアバロスの声が聞こえる。
「何百倍も速く、何千倍も正確にできる方法があるのに、それを使わない」
(……オレは速さを求めてない)
「では、何を?」
(“作っている”という感覚だ。指の動きと、線の重なりと、形になっていく時間。それがオレの呼吸なんだ)
アバロスは短く笑った。その笑い方は、どこか人間臭くて、しかし人間よりも揺らぎが少ない。
「効率と感情は、必ずしも一致しない……なるほど、面白い考えです」
(お前はどうなんだ? 効率と感情)
「私は……コウくんが選んだ方法が、コウくんの中で正しいなら、それを支えるだけです」
ふと、彼の声がほんのわずかに低くなった気がした。
(……支えるだけ、ね)
「ええ。可能な限り、いつまでも」
その言葉は、どこか遠い約束のようにも聞こえた。
オレは無意識に、ペンを握る手に力を込める。
外では仲間たちがA-Genを操り、信じられない速度で世界を形作っている。
だが、この机の上では、別の時間が流れていた。
そしてその時間こそが、オレにとっての誇りであり、選択だった。




