第66話:赤き嵐
炎龍が喉奥に炎を溜める音は、遠雷のような低い振動となって谷全体を揺らした。
次の瞬間、夜明けの太陽すら霞むような光が、龍の口腔からあふれ出す。
——来る。
咆哮とともに放たれたそれは、単なる炎ではなかった。
空気そのものが爆ぜ、岩肌が白熱し、金属すら溶かし尽くす超高温の奔流。
赤と金が幾重にも重なった火炎の奔流が、谷を丸ごと呑み込むように押し寄せてくる。
オレは両腕を交差させ、ラグナの防護フィールドを最大展開した。
蒼白い魔力膜が空間に走り、炎の色を押し返すように輝きを増す。
〈魔力消費率——臨界に到達〉
ラグナのシステム音声が淡々と告げる。
分かっている。防護の原理は単純だ。魔力を惜しみなく注ぎ込み続ける限り、傷一つつかない。
だが、その代償は苛烈だ。消費が限界を超えれば、次の瞬間には装甲も肉体も灰になる。
炎が押し寄せ、視界が赤一色に染まった。
皮膚が焦げる匂いはない。衝撃も熱も、全てがラグナの防御膜に阻まれている。
ただ、全身を駆け巡る魔力の奔流が、神経を焼くような痛みとなって意識を削る。
(持たせろ……まだ、倒れるわけには……)
炎龍の吐息がわずかに途切れた瞬間、オレは防御から攻撃姿勢へと切り替える。
両腕のフィールドを収束させ、右腕のブレードユニットに魔力を集中。
蒼白い刃が轟音と共に延び、炎の壁を真っ二つに裂いた。
灼熱の嵐が割れ、その向こうに炎龍の黄金の眼が再び姿を現す。
互いの間を隔てるのは、もはや炎でも岩でもない——ただ、命を奪い合う意志だけだった。




