第64話:混乱の渦
炎龍が頭を振った。
そのわずかな動きだけで、岩壁が抉れ、上方から巨大な岩塊が雪崩のように降り注ぐ。
轟音と共に土煙が視界を覆い、灼熱の空気に混じって粉塵が肺を刺した。
「視界が……ッ!」
オレはラグナのセンサーを赤外線モードに切り替え、ぼやける輪郭の中から炎龍の影を捕捉する。
次の瞬間、地鳴りと共に谷底が沈み込んだ。溶岩の奔流が岩間から噴き上がり、火の粉が嵐のように舞い上がる。
周囲の崖沿いに残っていた野生の魔獣たちが悲鳴を上げ、四方八方へと逃げ惑った。
その混乱は、まるで大地全体が意思を持って暴れているかのようだった。
(戦闘領域が……広がっている)
ラグナのHUDが赤く染まり、危険区域の範囲が拡大表示される。
避難させたはずの仲間たちが、この揺れで遠くまで退けているか不安がよぎる。
炎龍はその巨体をくねらせ、尾を薙ぎ払った。
鋼鉄すら粉砕する一撃が岩場を薙ぎ、衝撃波がオレを後方へ弾き飛ばす。
瞬間的にブースターを点火し、地面を蹴って着地するが、膝部の魔力シリンダーが過熱警告を発した。
「チッ……持久戦は避けられないか」
炎龍は口元を再び開き、喉奥の紅蓮が渦を巻く。
熱と光が増し、空気が悲鳴を上げる中、オレは残る手段を即座に洗い出した。
混乱は収まらず、むしろこれからが本番だと告げているようだった。




