第60話:夜の静寂
夜の山は、昼間の熱気を残しながらも、妙な冷たさを帯びていた。
焚き火の炎がぱちぱちと音を立て、揺らめく光が仲間たちの顔を照らす。
誰もが口数を減らし、それぞれの思考の中に沈んでいた。
イーサンは短剣を磨きながら、視線を落としたまま。
リオナは薬草袋を抱え、何度も中身を確認している。
トマスは防具の留め具を締め直し、ファルクは遠くの闇を見つめて動かない。
オレは火の揺らぎを目で追いながら、無意識に拳を握っていた。
(これが現実の戦い……)
ゲーム画面越しに見ていた“戦いの前夜”は、もっと軽かった。
だが今は、息づかいや小さな仕草、張り詰めた空気の全てが、明日の命運を決める真剣さで満ちている。
ふと、隣に座ったガルドが低くつぶやいた。
「煌也……あんたは怖くないのか?」
「……怖いさ。でも、逃げるつもりはない」
自分でも驚くほど静かな声が出た。
ガルドは焚き火越しにオレを見据える。
「怖さを知っている奴の方が、生き残る確率は高い」
その目は、長年戦場を渡ってきた者だけが持つ深さを湛えていた。
夜風がひゅう、と吹き抜ける。
山肌の向こうから、かすかに地鳴りのような音が聞こえた。
炎龍の寝息か、それとも夢の中で暴れているのか。
オレは火の温もりを背に感じながら、明日を見据える。
この世界で生きると決めたからには、痛みも、恐怖も、背負って進むしかない――。




