第57話:進む覚悟
夕暮れが近づく頃、オレたちは峡谷を抜け、風を遮る岩壁の下で野営の準備を始めた。
ファルクが持参した簡易テントを張り、トマスが焚き火を組み、イーサンは周囲を一巡して警戒に当たる。
リオナは水筒の残量を確認し、採取した薬草を小さな袋に分けていた。
焚き火に火が灯ると、冷え切った空気が少しだけ和らぐ。
炎の明かりが仲間たちの顔を照らし、皆それぞれ遠くを見つめていた。
「……炎龍を倒せば、この地は変わるのか?」
イーサンがぽつりと呟く。
「変わらなければ、倒す意味がない」
ファルクの低い声は、断固とした響きを持っていた。
彼にとってこれは、戦場から離れた今もなお果たしきれていない“防衛”の延長なのだろう。
「少なくとも、炎龍が空を飛ぶ限り、作物も育たないし、流民も定住できないわ」
リオナの言葉は現実的で、痛いほど真実だった。
オレは焚き火の揺らめきを見つめながら、胸の奥に引っかかる感覚を覚えていた。
――これはゲームのシナリオじゃない。
用意されたイベントでも、経験値稼ぎの討伐でもない。
この世界で生きる人々にとっては、今日を生き延びるための戦いだ。
「……やるしかないな」
自分でも驚くほど静かな声が漏れた。
その言葉に、仲間たちが一斉にオレを見た。
「オレは、この地が変わる瞬間を見たい。だから行く」
それは義務でも、名誉でもない。
ただ、目の前の現実に向き合い、自分の選択を刻むための覚悟だった。
焚き火の炎がぱちりと弾け、夜空に火の粉が舞った。
その瞬間、全員の間に言葉はいらなかった。
静かな決意が、ひとつの炎のようにそこにあった。




