第56話:過酷な道程
辺境の朝は、刺すような冷気で始まった。
吐く息は白く、足元の霜は踏みしめるたびに乾いた音を立てる。
オレたちは蒸気機関車で集落の外れまで移動した後、徒歩とオートモビルを併用して北東へ進んでいた。
道と言えるものはほとんどない。
凍った小川を飛び越え、崩れかけた石橋を慎重に渡り、車輪の通った跡すら消えかけた泥道を進む。
オートモビルは時折、深い轍に車体を取られ、全員で押し上げなければならなかった。
「この先はもっと道が悪くなる。歩きの方が早いかもしれない」
イーサンが斥候らしく先頭で警戒しながら声をかける。
彼の耳は風を切る音や遠くの獣の鳴き声を拾い、異変があればすぐに立ち止まった。
リオナは歩きながらも周囲の植物を見逃さない。
「この葉は乾燥させれば止血に使えるわ。……持っておきましょう」
彼女の手際の良さは、場慣れしている証拠だった。
トマスは重い盾を背負い、隊の後方を守っていた。
「こっちは大丈夫だ。背中は任せろ」
その声は心強く、時折仲間たちの緊張を和らげた。
一方、ファルクは無駄口を叩かず、淡々と歩を進めていた。
だが、その視線は常に地形と仲間の動きを追っている。
「この辺りは地盤が脆い。雪解け水で崩れる場所がある……足元に気をつけろ」
短く、的確な指示に誰もが従った。
昼過ぎ、急峻な峡谷の縁に差しかかったとき、オレはふと足を止めた。
眼下に広がる景色は、灰色の岩肌と枯れ木が連なる荒涼たる光景――だが、その先にうっすらと赤黒い靄が漂っているのが見えた。
「……炎龍の影かもしれない」
誰ともなく呟いたその言葉が、全員の胸に重く沈んだ。
それでも、足を止めるわけにはいかない。
行く手には危険と寒さ、そして未知が待っている。
だが、その先にこそ、この地の運命を変える何かがある――そう信じて、オレたちは歩みを進めた。




