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第53話:寄り添う同意

 オレの言葉に、広場のざわめきは一瞬、吸い込まれるように止まった。

 誰もが驚いている――無理もない。

 この地に来て日も浅いよそ者が、いきなり炎龍を討つなどと言い出したのだから。


 沈黙を破ったのは、アリシアだった。

 広場の端から、まるで風に導かれるように歩み出てくる。

 光を受けた銀色の髪が、冷たい空気の中で柔らかく揺れた。

 その姿は、この荒れ果てた辺境にあって異質なほど澄んでいて、目を離すことができなかった。


 「……もし、あなたが本気でその道を行くというのなら、私はあなたと共に歩みます」

 静かでありながら、広場の隅々まで届く声。

 その瞳には、迷いがない。


 「だが、炎龍はあなたが想像する以上の脅威です。私ひとりでは魔法力に限界がある。あなたの力――神授で得た力が必要です」

 彼女はまっすぐにオレを見据えた。

 その真剣さに、オレの中で揺れていたためらいが、少しずつ薄れていく。


 「……それでも、やる価値はある」

 オレがそう答えると、アリシアはわずかに微笑んだ。

 それは決意を共有した者だけが交わす、静かな合意の笑みだった。


 ハイラムが二人を見やり、深く頷く。

 「ならば、オレも力を貸そう。炎龍の巣までの道を知る者は、この地ではそう多くない」


 こうして、オレの中で曖昧だった炎龍討伐の意思は、アリシアとハイラムという二つの確かな支えを得て、揺るぎないものとなった。

 それは単なるゲームイベントでも、予定されたシナリオでもない。

 オレが、この世界で初めて“本気で選んだ”道だった。


こうして、辺境の冷たい風の中で交わした短い言葉が、オレの行く末を大きく変えた。

 炎龍討伐――それは、この地の人々にとっても長年叶わなかった夢であり、同時に恐怖の象徴でもある。

 それを現実の目標として掲げた時、広場の空気はわずかに震えたように感じた。


 その日から、オレの日常は変わった。

 ハイラムは地図や記録を持ち出し、かつての遠征経路や失敗談を語ってくれる。

 アリシアは、周辺の地形や気候、炎龍の活動周期を詳細に調べ、必要な物資や人員の手配まで段取りを整えていった。

 オレは――自分の神授の力をどう使うか、そしてどこまで使うべきかを改めて考える。


 この世界では、力を振るうのは簡単だ。だが、それで守れるのは目の前の一瞬だけかもしれない。

 炎龍を討つことが、この荒れ果てた大地を救う第一歩になるのか、それともただの自己満足に終わるのか――答えはまだ分からない。


 それでも、オレはもう動き出していた。

 この世界に来てから初めて、誰にも与えられていない、自分自身の選択で歩み出す一歩を。

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