第51話:貧しさの源
その日、村の様子をひと通り見て回った。
井戸から運ばれる水を、女たちが桶に汲み、土埃まみれの路地を何度も往復している。
子どもたちは裸足のまま、乾いた地面を駆け回り、笑いながらも、その頬は少しこけていた。
この辺境が貧しい理由は、単に王都の政治が冷淡だからではない――それはオレも最初から分かっていたつもりだった。
だが、こうして目の前に広がる現実は、想像以上に根が深い。
「……あんた、知らんのか」
肩越しに声をかけてきたのは、腰の曲がった老人だった。
皺だらけの顔をさらにしかめ、吐き捨てるように言う。
「北の高山から降りてくる炎龍のせいだ。
あいつが空を飛べば雨雲は逃げ、降りるのは灰ばかり。
畑も森も焼けて、山の水脈すら途絶えちまった」
炎龍――この世界を設計したとき、ムース大陸中央の高山に封じられた“最強の災厄”として組み込んだ存在。
設定上は辺境にまで直接被害が及ぶことは稀だが、現実のこの世界では、長年の影響が積み重なっていたらしい。
「追い払うどころか、誰も近づきたがらねぇ。
戦に出せる兵はおらんし、そもそも近づく前に焼かれちまう」
老人はそう言って、乾いた地面に唾を吐いた。
オレは返す言葉を失った。
これはただの“イベント”ではない。
井戸の水を囲んで笑う人々の姿が、ふと脳裏に浮かぶ。
それは、炎龍の影が消えれば、もっと豊かになれる暮らしだ。
――炎龍をどうにかしなければ、この地の貧しさは終わらない。
そう思った瞬間、胸の奥で、微かな決意が形を持ち始めた。




